待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2022年12月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『急行 「北極号」』です。

『急行 「北極号」』

 12月、クリスマスが待ち遠しい季節になりました。筆者は、この時期に雪が降ると、窓の外に北極号を探してしまうことがあります。えっ、北極号をご存じない? では、ご紹介しましょう。1986年のコルデコット賞に輝いた名作絵本『急行「北極号」』を!

 雪が降りしきるクリスマス・イブの夜。少年は、サンタがやって来るのを心待ちにしていました。けれど、夜が更けて聞こえてきたのは、シューッという蒸気の音と、金属が軋むブレーキ音でした。驚いた少年が外を見ると、機関車が家の前に止まっているではありませんか。それが北極号……、サンタを待つ子どもたちを乗せて走る、急行列車です。

 北極号は、オオカミがうろつく暗い森を抜け、雪に埋もれた高山をも一気に越えていきます。さらに氷の砂漠や、氷山が浮かぶ海を渡り、目指すは最果ての地「北極点」です。


 そこは、サンタの住むところ。この北極点で、少年は最もほしかったものをサンタからプレゼントされました。それは、サンタのそりについた銀の鈴。ところが少年は、せっかくもらった銀の鈴をうかつにも失くしてしまいます。果たして少年は、その鈴を再び手にし、美しい音色を聴くことができるのでしょうか……。


 実は、この銀の鈴の音は、サンタの存在を信じる者にしか聴こえません。だから、多くの大人たちはその音を聞くことができないのです。ただし、最後のページには「心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ。」と書かれていました。


 読む時期を選ぶクリスマス絵本ですが、鈴の音にのせて、信じることの大切さや尊さを語り、温かな余韻を残す本書は、静かで落ち着きのある待合室によく似合います。


 無垢な幼子の心を失って久しい筆者は、もはや鈴の音も聞こえず、ましてや北極号になど出合えそうもありません。そこで、今年のクリスマスも絵本を開いて北極点へ旅立つつもりです。みなさんもご一緒にいかがですか。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

絵と文:C.V.オールズバーグ 
訳:村上春樹
出版社:あすなろ書房 


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