待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2022年7月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。

『しずくのぼうけん』

絵本を選ぶときは対象年齢やテーマなどを考慮して、読者の「いま」に適したものを選びたいですね。

でも待合室に置く場合は、読者の年齢や好みなども多様で、何を選べばよいか迷うことも多いと思います。そのようなときは、「誰かのいまに適した絵本」に無理に拘らず、「自分の好きな絵本」を選んでみてはいかがでしょう。あなたが夢中になるほど好きな本なら、待合室の患者さんにも好まれる可能性が高いですよ。
たとえば、今回ご紹介する『しずくのぼうけん』は、筆者が大好きな絵本です。村のおばさんが持つバケツから飛び出した、小さな水のひとしずく。その旅は埃だらけの裏庭から始まります。汚れたしずくは、きらきら光る身体を取り戻そうと、洗濯屋や病院を訪ねますが、思うようにいきません。そのうちに、しずくは蒸発して空へ昇ることに!
ここからお話しは、スケールの大きな冒険譚になっていきます。空の黒雲まで昇ったしずくは、そこから追い出されて雨となり、地上に降りたら岩の割れ目に落ちて、凍って、解けて流れて川になり……と、怒涛の展開が続きます。やがてしずくは、思いがけない姿になって、次なる冒険を待ち望むのでした。
さて、みなさんはもうお気づきですね? 『しずくのぼうけん』は、水の三態変化を描いた科学絵本でもあるのです。もちろん、教科書のような絵本ではなく、絵本を読む楽しさをとおして学び、自然への興味を呼び起こす作品です。そのため、科学絵本という面に注目されがちですが、筆者は、ハラハラ・ドキドキの冒険の面白さこそが、この絵本の1番の魅力だと思っています。
読んでみれば、わずか5分と少しの時間ですが、ぐいぐいとお話に引き込まれ、しずくと一緒に冒険をしているような気持ちになります。小さな読者ならなおのこと、時間を忘れて物語に没頭することでしょう。伸び伸びとした絵や、リズミカルで軽やかな邦訳も素晴らしい、ポーランド生まれの良書です。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:マリア・テルリコフスカ
絵:ボフダン・ブテンコ
訳:うちだりさこ
出版社:福音館書店 
ISBN:978-4-8340-0208-9

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