直筋系のスイッチが入った高齢者

◉認知症の高齢者にもスイッチがある
a〜dは介護施設に入所している90歳の高齢者である。数年前より認知症となり、自分では口腔清掃が不可能な状態になった。aはその当時の口腔内である。毎日の口腔清掃を行っていたが、写真のようにいつも不潔な状態で、経口的に摂食することで必ず誤嚥性肺炎を起こしていた。施設嘱託医から相談を受け、口腔内装置を作ることにし、bのような口蓋皺壁を付けて装置を設計した。歯列形態が左右非対称で、いつも頭を傾けている状態である。会話もほとんどできない状態であったが、cの3種類の装置を製作し、それらを交互に試適して、使えそうな装置から使い始めた。口蓋皺壁のないものをまずは選択されたので、使用を開始した。
dは開始半年後である。この口腔内は、施設での口腔ケアの前の状態である。装置の後縁は厚みが8mmあって、段差によって装置の後縁付近は舌で自浄できないが、それ以外の部位は自らの舌と口唇の動きできれいにすることができた。装着後半年で、口腔ケアどころでなく歯ブラシさえも使わなくてもよいかのような口腔内を実現できた。これは装置の厚みを与えて直筋系のスイッチが入り、舌が自ら口腔内をあちこち「レロレロ」した結果である。当然だが口唇も舌の動きに合わせて動き、口唇圧で歯面まで自浄できるようになった。
装着1年半で介助なしに自分で食事をし、車椅子で自分では動けなかったものが自分の脚で床を蹴ってあちこち動き廻る、会話の好きな高齢者に復帰できた。もちろん、装置装着後は一度も肺炎にかからずに元気に毎日を送っているが、元気になりすぎたために最初の施設からは退所するという幸運な生活に戻ることができた。
認知症の高齢者は介護や口腔ケアで苦労している方々が多い。この症例に限らず、高齢者の復活を装置が実現している症例は偶然ではない。直筋系のスイッチを入れるだけという単純な作業で復活できるとしたら、乳児から超高齢者まで舌を目覚めさせる義歯や装置の概念に変わることが重要であると感じた。
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