ダイレクトボンディングの成否を決める
臼歯部咬合面の解剖学的形態の回復
臼歯ダイレクトボンディング ハンズオン
まず初めに『臼歯部ダイレクトボンディング ハンズオン』の著者である佐藤貴彦先生を紹介したい.佐藤先生は1998年に岩手医科大学歯学部を卒業され,同大学の歯学研究科で歯学博士となり,同大学の第2保存科に勤務後,2005年に盛岡市でたかデンタルクリニックを開業し現在に至っている.コンポジットレジン修復に関する講演や研修会そして著書も数多く執筆しているが,今回初めて単著となる臼歯部咬合面のダイレクトボンディングを臨床で行うにあたり必要な知識やテクニックなど全てをまとめた書籍となっている.
次に書籍の内容を簡単に説明すると,初めになぜ臼歯部にダイレクトボンディングを行うのか,直接・間接修復の長所・短所などを踏まえて述べている.次に大臼歯の解剖学的形態を理解するために上顎や下顎の解剖的規則性やバリエーションをまずは平面的に説明した後に,咬合面の立体的築盛を行うためのキーポイントを臨床ステップごとに細かく紹介している.また,大臼歯の臨床例を用いてコンポジットレジンによるダイレクトボンディングで解剖学的形態の再現ができることを臨床例で示している.さらにダイレクトボンディング後のメインテナンスをドクターとハイジニストまた患者に分けて説明し,実際の治療に要するタイムスケジュールも示している.最後に臨床で使用する器具・機材や材料などをどのような場面でどのように使用するかが紹介されている.
本書の中で最も詳しく解説されているのが大臼歯の咬合面形態である.我々歯科医師は毎日多くの歯を見ているはずであるが,失われた歯の形態を瞬時に推測できる歯科医師は少ない.周囲に残された健全歯質の裂溝や隆線を手掛かりに失われた歯質をまず頭に描けなければ解剖学的復元は難しい.臼歯部のダイレクトボンディングの成功か否かを決める大きなポイントは解剖学的形態がいかに回復されているかである.それ故,臼歯部咬合面の解剖学的形態が分かりやすく詳細に解説されていて,上顎大臼歯咬合面の基本的な規則的特徴や下顎大臼歯咬合面の5咬頭ドリオピテクスY型から,4咬頭の+型,さらにX型に変化していく咬合面形態を再度学ぶためには最良の書となっている.
本書を見て最も感じることは歯科医師としての良心や著者の人柄が強く伝わってくることである.それは臨床の全てが非常に丁寧にされており,特に歯質との適合精度は秀逸である.また,ダイレクトボンディングで最も大切にすべき表層のエナメル質もしっかり保存され,必要以上に切削しない臨床に全てが現れているように思う.
数多くのコンポジットレジンを得意とする先生方の臨床例を見てきたが,本書以上に良心を感じられる臨床は見たことがない.
最後に著者がさりげなく挿絵に使用している写真のクオリティーの高さは彼の臨床と同じであり,ぜひ手に取っていただきたい良書である.
評:岡口守雄(東京都千代田区開業)
[日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』第43巻 第1号 2023 掲載]
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このたび、日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』に書評を掲載いただきましたのでご紹介いたします。
今回は、『臼歯ダイレクトボンディング ハンズオン』の書評を、岡口守雄 先生(松本歯科大学)に執筆いただきました。是非ご一読ください。