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刊行にあたって
支台歯形成の技術は、歯科治療が始まった当初からの重要なテーマであったことは、容易に想像できる。近年、CAD/CAMや光学印象などの歯科医療技術は著しく進化しているが、歯科医師自身が患者の歯を形成するという治療ステップが自動化されることは、今後もないものだと思われる。
歯科医師の治療技術とは、知識の上に成り立ち、自らの手で獲得していくしかないものである。その習得には、膨大な時間と労力が必要であり、それを目指す者には、時にとてつもない苦労が伴う。このような言葉は、現代の風潮に逆行するものとして受け入れられにくいかもしれないが、筆者が30年以上にわたる歯科医師人生を振り返るなかで、改めて実感している真実でもある。本書に掲載された臨床写真を見て、美しいと感じていただけたなら、その裏にある筆者の技術習得の過程に、少しだけ思いを巡らせていただければ幸いである。
本書のChapter1では、遥か昔から伝えられてきた、支台歯形成の基本概念について考察した。ここで述べた概念は、筆者の知るかぎり1960年代から受け継がれてきた普遍的なものである。
続くChapter2では、現代歯科臨床において必要不可欠とされる審美修復の概念と術式について、筆者の臨床ステップをもとに解説した。
Chapter3では、読者が実際の臨床に応用しやすいよう、部位別・症例別に模型と臨床写真を用いて詳細に解説している。とくに、写真を見ながら真似をすることで技術が習得できるよう、可能なかぎり多くのステップ写真を掲載した。
そしてChapter4では、精度の高い臨床技術には質の高い器具が不可欠であるとの考えから、筆者が日々の臨床で使用している器具と材料を紹介している。ぜひ参考にしていただきたい。
臨床力を高めたいと願うとき、歯科臨床においては歯科医師自身の指先の技術力の向上が大きく影響するという特徴がある。そして一度身についた技術力は、歳を重ねても衰えることなく、むしろ磨きがかかり、研ぎ澄まされていく。本書では、そのことを膨大な臨床写真を通じて伝えたいと考えた。
筆者は「ライフチェンジングデンティストリー」という言葉を臨床の基軸としている。自身の臨床で患者の人生を豊かに変えることができれば、これほどすばらしいことはない。修復治療において、支台歯形成の精度は長期予後のスタートラインである。そして、丁寧な治療の積み重ねは、患者の人生を変えるのみならず、本書を執筆するに至った筆者自身の人生をも変える結果となった。
本書の執筆にあたり、多大なご尽力をいただいたデンタルダイヤモンド社編集部の宮口 城氏に心より感謝申し上げる。幸運にも、次回また執筆の機会に恵まれた際には、再び深夜まででも苦労をともにできればうれしく思う。
本書は単著ではあるが、気のよい信頼する仲間たちの助けによって完成した。長年にわたり当院の臨床を支えてくれている萩元 剛先生、いつも深夜まで手伝ってくださっている塩田幸一朗先生。また、本書におけるすべての補綴装置を製作し、20年以上筆者の歯科技工を担当していただいている、アッヴェニーレの辰巳 進歯科技工士。
そして何よりも、開業以来筆者の臨床を支えてくださっている岩井理子歯科衛生士の存在なくしては、本書の臨床ステップはかたちにできなかったであろう。日頃、言葉では伝えきれなかった感謝の気持ちを、ここで改めて伝えたい。「いつもありがとう」
最後に、歯科医師として多くの出会いに恵まれ、数々の賢者から教育と指導を受けることができた。なかでも、恩師である岩田健男先生には心から深く感謝を申し上げたい。
2025年11月
小川洋一
CONTENTS

小川洋一(おがわ よういち)
1990年 明海大学歯学部 卒業
1990年 河津歯科医院 勤務
1997年 東京都中央区・月島にて小川歯科医院開業
2010年 東京都中央区・東京駅八重洲駅前に移転。
医院名を東京ステーション歯科クリニックへ変更
2014年 松本歯科大学 臨床教授
2021年 明海大学歯学部 客員准教授
2023年 医院規模拡大に伴い、東京駅中央口からすぐの場所に移転
2024年 明海大学歯学部 臨床教授
現在に至る
所属学会
日本顎咬合学会 指導医
OJ(Osseointegration Study Club of Japan)
日本審美歯科協会
日本歯内療法学会
アメリカ歯周病学会
ヨーロッパインプラント学会
国際口腔インプラント学会認定医
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本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『ビジュアルでわかる支台歯形成パーフェクトブック』です。