Contents
刊行にあたって
わが国に口腔筋機能療法(Oral Myofunctional Therapy:以下、MFT)が導入されてから、2023年で46年が経過した。1917年にアメリカの矯正歯科医・Alfred P. Rogersが考案した筋訓練法は、1970年代に言語療法士のRichard H. Barrett や William E. Zickefooseらによって改良され、MFTと名称を変えてリバイバルした。
筆者らは、1978年と1979年にRichard H. Barrettを招いてMFT講習会を2回開催し、その後は1981年よりZickefoose夫妻が引き継ぎ、2018年にはJulie Zickefooseが最終の講習会を行った。
2018年4月には、口腔機能低下症と口腔機能発達不全症が健康保険に導入された。これを機会に時代のニーズもあって口腔機能への関心が高まり、一般歯科医院においても口腔機能訓練としてMFTが取り入れられる機運が高まっている。
田口円裕氏(厚生労働省医政局歯科保健課)は、人口構成や歯科疾患状況の変化に伴い、歯の形態回復を主体にした“治療中心型”から、個々の状態に応じた口腔機能の維持・回復を目指す“治療・管理・連携型”の歯科治療の必要性が増すと述べている。日本歯科医師会の近未来のターゲットにおいても、8020運動の継続と口腔機能の回復・維持を掲げている。時代は、ゆっくりと変化の兆しをみせているが、この潮流に加わるのか、多様な生き方を選ぶのか、投資する価値があるのかどうかを判断しなければならない。近未来の歯科は治すから予防へ、そして食べる、話す、呼吸するといった口腔機能の訓練、維持へと方向を変えつつある。
2022年4月より、口腔機能発達不全症の対象が15歳未満から18歳未満に拡大された。歯科医師や歯科衛生士は、口腔機能の異常を見つけたならば、保護者や本人に説明して気づかせる役割を担っているといえる。言葉の問題などについては、小中校のことばの教室などへの紹介を通じて、口の健康づくりの支援を行わなければならない。また、超高齢社会を反映し、高齢者のオーラルフレイルは口腔機能低下症の予備軍として捉えられている。
口腔機能発達不全症に関する研究発表は日本小児歯科学会などで増えており、今後、口腔機能訓練に関する基礎的な根拠が証明されていけば、よりいっそう関心が高まっていくだろう。もちろん、歯科医院の地域性、歯科医師の興味や知識、歯科衛生士のスキルなどの問題で、介入に躊躇する傾向があることは否めない。しかし、全身の健康の価値が高まり、口腔の健康との関連性に関心が向けられている昨今の風潮を考えれば、口腔ケアと同様に、MFTは今後もクローズアップされていくだろう。
本書は、月刊デンタルダイヤモンドの連載「もっと知りたいMFT フロントランナーから学ぶ口腔筋機能療法の“いま” 」をベースとして、MFTが今後どのように活用されていくのか、将来展望を見越したトピックスが収載されている。さらに、書籍化にあたって臨床現場で活躍する歯科医師や歯科衛生士の声が追加され、MFTの知識を深める最新の知見が凝縮されている。各執筆者には、おのおのの得意分野を解説いただいた。
活躍の場を広げるMFTの価値が、さらに高まっていくことを願っている。
2023年3月
編集委員 大野粛英 橋本律子
CONTENTS
大野粛英(おおの としひで)
1962年 日本歯科大学卒業
1966年 同大学大学院(矯正学専攻)修了
1967~1978年 同大学矯正科非常勤講師
1970年 横浜市にて矯正歯科開業
1993~2011年 日本歯科大学非常勤講師
1996年~ 北京首都医科大学客員教授
2002年~ 神奈川県歯科医師会「歯の博物館」館長
2011年~ 日本歯科大学生命歯学部客員教授
2017年~ 昭和大学歯学部客員教授
橋本律子(はしもと りつこ)
1990年 昭和医療技術専門学校歯科衛生士科卒業
1990年 大野矯正クリニック勤務
1999~ 横浜市立小中学校難聴言語通級指導教室
2019年 臨床診断指導
2002年~ 日本口腔筋機能療法研究会理事
2013年~ 日本口腔筋機能療法学会理事
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行に寄せて」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行に寄せて」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『もっと知りたいMFT 口腔筋機能療法の知識をぐっと深めるトピックス』です。