今月は、好奇心旺盛な宇宙人(またの名を地球人ともいう)が撮った、火星の写真を集めた絵本『火星は…』をご紹介します。表紙は、宇宙に興味がある方にはよく知られた、赤みがかった火星の全体写真ですが、ひとたび表紙をめくれば、そこにはこれまで見たこともない、信じられないような火星の姿が切り取られています。本書があれば、待合室の患者さんを、老若男女問わず楽しめる「神秘の火星ツアー」へとご案内できますよ。
すべての写真は、NASAが打ち上げた火星探査ロケットに搭載の「高性能宇宙カメラ」によって撮影されました。火星の上空およそ320㎞の高さから撮られた写真ですが、驚くほど鮮明です。一般に火星といえば、グランドキャニオンのような荒涼たる光景を思い浮かべます。ところが、そのイメージとはまったく趣の違う写真が、何枚も登場します。それらは、色彩と造形の美しさを併せもつ芸術作品のようで、瞬時に目を奪われることでしょう。
たとえば、リヨという名のクレーターにある砂丘は、ターコイズブルーに乳白色を混ぜたような、きれいな水色の砂紋を見せてくれます。また、火星の南極は、二酸化炭素が凍ったドライアイスに覆われている純白の世界です。どちらも息をのむほどに崇高で、神々しささえ感じますが、同時に微かな違和感も覚えます。この違和感は、未知なる宇宙への畏れに起因するのでしょうか? とても不思議な感覚です。
それぞれの写真にはシンプルな解説が添えられており、火星では地球と同じように風が吹くことや、氷や隕石、大昔にあった水などによって地形が作られ、現在も変化していることなどがよくわかります。また、気温や自転・公転の周期など、火星についての基本的な知識を得られる点も面白いです。
科学の進歩を実感できると同時に、宇宙への夢とロマンを内包した写真絵本ですが、あえて残念な点を挙げるとすれば、「火星人が1人も写っていないこと」ですね。
歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『火星は…』です。