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刊行にあたって
「ひづめの音が聞こえたら、シマウマではなく馬だと思いなさい」
―When you hear hoofbeats, think of horses not zebras(Theodore Woodward)-
という有名な医学の格言があります。
これは「病気を診断する際には、稀なRare Disease(シマウマ)ではなく、まず、確率の高いCommon Disease(馬)から検討しなさい」という意味で、経験未熟な医者が、鑑別診断に最初から稀な疾患を挙げがちなことを戒めた言葉です。
前書『クイズで学ぶ口腔疾患123』の前文で書きましたが、大切なのは、正しく診断することより、診断へ至るプロセスであり、患者アウトカムです。もし、自分の診断に違和感を覚えたら、躊躇せず立ち止まって再考することです。最初の診断に固執して、漫然と放置して、患者に不利益を与えることは避けなくてはいけません。とくに悪性疾患はアウトカムに大きな影響を及ぼし、time-dependentに急速に進行する血液疾患、感染症は注意が必要です。
シマウマ探しにはまってはいけません。しかしシマウマは確実に存在しており、忘れたころに現れることがあります。本書はクイズ形式なので、シマウマも多く取り上げています(馬が答えではクイズになりません)。忘れてはいけないシマウマを頭の片隅に留めておくためにも、本書は役立つものと思います。
循環器内科医の山下武志先生は、すべての医師のとる行動は、①自信をもって放置する、②自分で治療する、③専門医に紹介する、の3つに集約され、重要なのは、3つの行動の選択を誤らないことと述べています(『3秒で心電図を読む本』メディカルサイエンス社,2012.)。
しかし、山下先生もおっしゃっているように、つねに正しい選択をすることは難しい。選択を誤ったとしても、患者アウトカムを悪化させないためには、自分の診断を過信せず誤りを反省・修正する謙虚さ、協力を求める勇気も必要だと考えています。
2025年3月
山城正司
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山城正司(やましろ まさし)
1988年 東京医科歯科大学歯学部卒業 第一口腔外科(現顎顔面外科)入局
2007年 群馬県立がんセンター歯科口腔外科部長
2009年 東京医科歯科大学大学院顎顔面外科講師
2013年 NTT 東日本関東病院歯科口腔外科部長
《所属学会》
日本口腔外科学会 専門医・指導医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医(歯科口腔外科)
口腔腫瘍学会評議員、頭頸部癌学会評議員
口腔癌取扱い規約ワーキンググループ員
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『診断力アップのための口腔疾患Q&A 83』です。