Second Editionの刊行にあたって
2017年に発刊された『歯周病と全身疾患 最新エビデンスに基づくコンセンサス』は、2013年にヨーロッパ歯周病連盟(EFP:European Federation of Periodontology)とアメリカ歯周病学会(AAP:American Academy of Periodontology)とでまとめられた “Journal of Periodontology” の増刊号を底本として日本臨床歯周学会の有志らによって編纂されました。現在までに2,000冊を超える大変好評な書籍となり、歯科医師はもちろん歯科衛生士にも広く読まれてきました。
現在では歯周病と全身疾患の関連は明らかにされており、一般市民にも少なからず認識が広まったようにも感じられます。興味深いことにAI 機能を持つChat GPTに、「歯周病は全身疾患に影響を及ぼすのか?」と質問すると、「はい、歯周病は全身疾患に影響を及ぼす可能性があります。(中略)口腔内の細菌は血流を通じて全身に影響を及ぼす可能性があるため、歯周病は全身の健康にも影響を与えることが知られています。(以下省略)」 との回答が瞬時に得られるほどです。
当初の Journal of Periodontology の増刊号から10年、本学会から編纂されたものから5年が経過しました。その間に「歯周病の新分類」も発表され、歯周病と全身疾患に関する研究も数多く報告されました。EFP と AAP からは改訂版等の新書は編纂されていませんが、この10年間で発表された最新の論文を本学会有志によってまとめてはどうかと声が上がり、そこで前回の執筆者全員に改訂版を依頼したところ快く引き受けていただきました。前回同様にプロジェクトリーダーは築山鉄平先生にお願いし、新たに加筆した「歯周病およびインプラント周囲組織の新分類と全身的影響」を山下素史先生に担当していただくことで、各疾患に関するエビデンスのアップデートを図りました。
昨今、歯周病と全身疾患の関連は医療従事者のみならず患者においても関心度の高い話題となっています。本学会会員の歯科医師や歯科衛生士のみならず、歯周病に携わる多くの歯科医療従事者にとって、この改訂版が全身疾患との関連を学ぶ参考書となることを祈っています。
2023年6月
特定非営利活動法人 日本臨床歯周学会
理事長
木村 英隆
刊行にあたって
歯周病に対する研究の進歩はとどまるところを知りません。1990年代後半から21世紀にかけて、歯周病とさまざまな全身疾患の関係があきらかになってきました。
本書でも語られているように、心疾患、糖尿病、低体重児出産など、歯周病と全身疾患との関係は多岐にわたり、それらはペリオドンタル・メディスンとも呼ばれ、“Floss or Die !?”(フロスか死か!?)といった言葉がメディアの見出しを飾り、歯科界、医学界、また一般の方々の注意を引いてきました。
さらに、両者のリンクの根底には「炎症」があり、歯周病の病因が解明されるにつれ、歯周病の世界では炎症を見つめ直そうという考えが広まってきました1、2)。従来の「歯周ポケットは悪」から、「炎症」が歯周組織を破壊し、また全身にも影響を及ぼす本質であること、そして歯周治療のゴールはポケットをなくすことではなく、炎症の臨床的指標である BOP(Bleeding on Probing:プローブ時出血)をなくすことであると、考え方が変わってきました。
2013年に、ヨーロッパ歯周病連盟(EFP:European Federation of Periodontology)とアメリカ歯周病学会(AAP:American Academy of Periodontology)は「歯周病と全身疾患」に関するワークショップを開催し、その時点で得られたエビデンスをまとめ、その結果は “Journal of Periodontology” の増刊号として刊行されました。本書はそれを下敷きとし、その後に得られた新しいエビデンスを加え、また豊富なイラストとともに読者にとってわかりやすい内容にまとめられています。本会が編纂する書籍として2016年に上梓された『歯周組織再生療法のコンセンサス』(医歯薬出版)に続く、エビデンスシリーズの第2弾として企画されました。本書の編集生の強いリーダーシップのもと、多くの会員がプロジェクトに参加してくれました。彼らの努力なくして、本書が日の目を見ることはなかったでしょう。編集に携わったすべての方々に、厚く御礼を申し上げます。
「臨床」という本会の名称が示すように、本会ではいままでこの分野への取り組みは必ずしも十分ではありませんでした。しかし、いまや歯周病と全身疾患とのリンクは患者さんの関心事ともなり、臨床に携わる会員の必修事項です。本書が、この分野のスタンダードとして、多くの歯科医師、歯科衛生士に長く読み継がれることを理事長として願っています。
2017年3月
特定非営利活動法人 日本臨床歯周学会
理事長
二階堂 雅彦
1. Offenbacher S, Barros SP, Beck JD. Rethinking periodontal inflammation. J Periodontol 2008;79(8 Suppl):1577-1584.
2. McGuire MK. Should our focus on inflammation change the way we practice? J Periodontol 2008;79(11):2016-2020.
CONTENTS
木村 英隆(Hidetaka KIMURA)
1990 年 九州大学歯学部卒業
船越歯科歯周病研究所勤務(福岡県福岡市)
1996 年 日本歯周病学会 認定医(現 歯周病専門医)
1999 年 木村歯科歯周研究所開業(福岡県福岡市)
2004 年 日本歯周病学会 指導医
2006 年 日本臨床歯周病学会 指導医
2014 年 日本臨床歯周病学会 インプラント指導医
2018 年 九州大学歯学部 臨床教授、ITI フェロー
2023 年 特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会 理事長
現在に至る
築山 鉄平( Teppei TSUKIYAMA)
2001 年 九州大学歯学部卒業
2001 年 佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)歯科口腔外科
2004 年 矢澤歯科医院(東京都中央区)勤務
2009 年 タフツ大学歯学部歯周病学歯周病専門医課程修了/同大学歯学部
審美補綴フェロー(2010 年まで)/同大学歯周病学講座Visiting
Clinical Assistant Professor(2017 年まで)/アメリカ歯周病学会
ボード認定専門医(ABP)
2011 年 医療法人雄之会 つきやま歯科医院勤務(福岡県福岡市)
2017 年 ヨーロッパインプラント学会(EAO)認定インプラント専門医
2018 年 つきやま歯科医院 専門医療クリニック天神開業(福岡県福岡市)
現在に至る
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『歯周病と全身疾患 最新エビデンスに基づくコンセンサス Second Edition』です。