- 採用したスタッフが喫煙者であることが判明しました。どうやら休憩時間中に喫煙しているようです。禁煙を強制することはできるのでしょうか。 長野県・K歯科
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喫煙者を排除する風潮に対しては、喫煙者を中心に、差別であるとか、人権侵害であるといった非難も聞かれます。喫煙の自由が基本的人権として保障されるのかどうかについては、古くから議論があります。判例上、喫煙の自由は、基本的人権に含まれると正面から認められたものではなく、仮に基本的人権に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではないとされています(最高裁昭和45年9月16日判決)。
このように、さほど強い権利とはいいがたい喫煙の自由ですが、使用者は、労働者の喫煙を禁止できるのでしょうか。
まず、休憩時間中の喫煙についてです。労働者は、休憩時間中、労働から解放されて休憩時間を自由に利用することができるのが原則です。しかし、事業場内での秩序維持義務まで免除されるわけではなく、施設管理や秩序維持の要請に基づく規律によって制約を受けます(最高裁昭和52年12月13日判決)。
また、通達においても、「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加へることは休憩の目的を害さないかぎり差し支へない」とされています(都道府県労働基準局長あて労働次官通達昭和22年9月13日発基第17号)。
これらの判例・通達に照らすと、少なくとも診療所の建物内および敷地内においては禁煙とし、休憩時間中を含めて労働者に従わせることは適法といえます。
次に、休憩時間中の診療所の敷地外における喫煙や、勤務時間外のプライベートにおける喫煙を禁止することについてです。これは、休憩時間中の診療所内における禁止よりも、いっそう労働者の人格や自由に対する配慮が要請されます。とはいえ、判例によれば、従業員の職務遂行に関係のない職場外の行為であっても、企業秩序に直接関連するものおよび企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものは、企業秩序による規制の対象となるとされています(最高裁昭和49年2月28日判決など)。
他人の目の前で喫煙していなくとも、喫煙によって有害物質が髪や衣服に付着し、また喫煙後の息にも有害物質が含まれるといわれています。そうすると、衛生が一般企業よりも強く求められる歯科診療所の業務においては、禁煙の要請は強いといえます。そのため、歯科診療所の労働者に対し、勤務時間外も喫煙を禁止することはいちおう可能と思われます。
ただし、あまりに広汎な規制は適法性に疑義が生じます。そのため、全面的な喫煙禁止ではなく、たとえば勤務開始1時間前から勤務終了までは喫煙を禁止するなど、部分的な規制が妥当かもしれません。
なお、労働者が喫煙禁止の規制に違反した場合ですが、この違反を理由に解雇等をすることは、違反の程度に照らしてペナルティが重すぎるため、できないと考えられます。そのため、喫煙を禁止したとしても、禁煙を「強制する」という観点からは、実効性に欠けるといわざるを得ません。
確実に喫煙禁止を実行させたいのであれば、そもそも喫煙者を採用しない方法をとるしかないと思われます。喫煙者を採用しないことは、契約自由の原則、採用の自由から、一般に許されると解されています。現に、星野リゾート、ファイザー日本法人、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険等の有名企業が、喫煙者は採用しない方針を公表しています。井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年4月号より「スタッフの禁煙を強制できる?」についてです。