- 今年の4月に改正労働安全衛生法が施行されたそうですが、歯科に関する変更点は何か
ありますか。 新潟県・U歯科 -
改正労働安全衛生法、同施行令および同施行規則が令和5年4月1日と令和6年4月1日に順次施行されています。これらの改正は、新たな化学物質規制制度の導入です。国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、そのなかには危険性や有害性が不明な物質が多く含まれています。しかし、これまで国が個別的管理の対象としていた化学物質は数百種類のみでした。そのため、規制・管理の対象となる化学物質を拡張する必要がありました。
とはいえ、国がすべての化学物質を個別的に管理することは現実的ではありません。そこで、規制対象物質に、国によるGHS分類(化学品の危険有害性ごとに分類基準およびラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルール)で危険性・有害性が確認されたすべての物質を順次追加するとともに、規制対象物質を取り扱う事業者が国に代わって管理を行う自律的管理が、新たな化学物質規制として義務化されたものです。
歯科分野においても規制対象となる化学物質の使用が想定されます。平成28年6月1日時点の規制対象640種類についてですが、たとえばインジウム、銀、クロム、コバルト、シリカ、ジルコニウム化合物、すず、銅、ニッケル、白金等が歯科分野における規制対象物質として挙げられています(日歯発第1535号平成27年11月20日)。
令和6年4月1日施行の改正内容は多岐にわたりますが、そのうち歯科診療所に関連し、かつ、重要と思われるものは、①「SDS等による通知事項の追加および含有量表示の適正化」、②「リスクアセスメントに基づく健康診断の実施・記録作成等」、③「化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務化」です。
①のSDS(Safety Data Sheet)とは、化学物質等を譲渡または提供する際に、その化学物質の物理化学的性質や危険性・有害性および取り扱いに関する情報を譲渡・提供の相手方に提供するための文書です。今回の改正では、SDSの通知事項に新たに「(譲渡・提供時に)想定される用途および当該用途における使用上の注意」が追加されました。また、成分の含有量の記載について、従来の10%刻みでの記載方法から、重量パーセントの記載が必要となりました。
ところで、規制対象物質を取り扱う事業者は、従前から、リスクアセスメントを実施する義務があります。リスクアセスメントとは、化学物質やその製剤のもつ危険性や有害性を特定し、それによる労働者への危険または健康障害を生じるおそれの程度を見積もり、リスクの低減対策を検討することをいいます。
基本的に、歯科診療所はSDSを受領する側になると思いますが、SDSはリスクアセスメントの基礎になりますので、その内容を十分に把握することが重要です。
②は、事業者は労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じる義務が課せられました。また、健康診断を実施した場合、その記録を作成し、5年間(がん原性物質に関する健康診断は30年間)保管する必要があります。
③の化学物質管理者と保護具着用管理責任者は、業種や規模に関係なく、規制対象物質の取り扱い等をするすべての事業場に選任が義務付けられました。化学物質管理者の選任要件は「化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者」、保護具着用管理責任者の選任要件は「保護具について一定の経験および知識を有する者」とされています。資格要件ありませんが、化学物質管理者については専門的講習等の受講が推奨されています。井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
▽月刊デンタルダイヤモンドのバックナンバーはこちら▽
https://www.dental-diamond.co.jp/list/103
▽Q&Aのバックナンバーはこちら▽
https://dental-diamond.jp/qanda.html
学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年12月号より「労働安全衛生法の改正による変更点」についてです。