A | 4.梅毒(第2期) |
梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum、以下、T.P)を原因とする性感染症である。厚生労働省によると1981年感染症発生動向調査開始以降、報告数が年間1,000人以下で推移していたが、2010年から増加傾向に転じた(図2)。
症状:梅毒には4つの病期があり、第1期梅毒、第2期梅毒、潜伏梅毒、晩期梅毒の順に進行する。口腔領域に特徴的な症状が現れるのは第1期、第2期である。第1期は、感染から約3週間後にT.Pの侵入部位に小豆大の腫瘤が形成される。これは初期硬結といわれ、数日後には表面が潰瘍になり硬性下疳となる。この時期には顎下、頸部リンパ節が無痛性に硬く腫脹することがあるが、この症状は3〜6週間で自然消失する。次いで第2期では、感染から6〜12週以降にはT.Pは血行性に全身に広がる。口腔咽頭粘膜に、特徴的な乳白斑を生じる。舌下面、口腔底粘膜に多く、本症例のように口蓋垂を中心に両側軟口蓋に生じるとbutterfly appearanceと呼ばれる梅毒特有の症状が認められるようになる。
診断:T.Pを直接顕鏡するか、梅毒血清反応で判断する。また、リン脂質のカルジオリピンを抗原とする脂質抗原法のRPR法(rapid plasma regain test)と、菌体成分を抗原とした梅毒抗原法のFTA-ABS法(fluorescent treponemal antibody-absorption)、およびTPHA法(treponema pallidum haemagglutination assay)の結果で判定する。本症例では、RPR法およびFTA-ABS法、TPHA法が陽性であったため、梅毒の診断に至った。
治療:梅毒が疑われる場合には、皮膚科などの専門科に対診する。本症例も梅毒を疑い、当院皮膚科に対診し加療してもらった。治療はアレルギーなど特別の理由がないかぎり、ペニシリン系抗菌薬が第一選択である。投与期間は病期により異なり、第1期では2〜4週間、第2期では4〜8週間である。本症例では、アモキシシリン(2,000mg/日)を8週間内服し治癒に至った(図3)。
梅毒は、近年急激な増加が報告されている疾患であり、口腔疾患の専門家である歯科医師は本疾患に対する注意を怠ってはならず、早期発見は感染拡大防止の点で重要である。
図2 2010年以降、梅毒報告数は増加傾向。2017年の年間累積報告数は5,826件となっており、44年ぶりに5,000件を越え、2018年には7,000件を超えた(厚労省調べ)
図3 アモキシシリン(2,000mg/日)投与8週間後
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