A | 1.本態性血小板症による凝固異常 |
診断のポイント:本態性血症板症(essential thrombocythemia:ET)は血小板の量的、機能的、形態学的異常を示す造血幹細胞のクローン性疾患であり、慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症とともに慢性骨髄増殖性腫瘍の1つである。発生頻度は年間10万人に対して1〜2.5人と非常に稀な疾患であり、ほとんどの場合は無症状である。血小板数は著しく上昇しているが、機能不全、凝固異常による抜歯後出血が本症例の病態である。血液検査をしないかぎり、診断には辿り着かない。
血液像異常は歯科医師が診断するものではなく、内科医への対診が必須である。血液所見からPT-INRは1.28と軽度の凝固異常を認めるものの、止血に難渋するようなデータではない。また、腫脹の割には局所炎症所見が強くなく、波動を触知するが感染によって膿瘍形成するには経過として早すぎる。皮下出血斑と口腔粘膜下出血斑を認めることから、腫脹は血腫によるものと考えられる。以上の所見から、何らかの凝固系異常の存在が推察される。
臨床検査では血小板数が高値を示しているため、血小板減少による出血とはいえない。患者への問診では、6年以上前より血液像異常が指摘されていて、抜歯時には血液内科において精査中であることが判明した。内科における骨髄穿刺による病理組織学的所見、染色体検査、遺伝子検査によりETとの診断を得た。
処置および経過:当科における処置として初診時に止血用シーネを作製し、サージセル®を填入したうえで、アドナ®・トランサミン®を点滴静注したが、完全な止血に至らなかった。患者への問診で現在血液像異常について内科において精査中であることが判明し、内科に対診したところ、本態性血小板血症が疑われていることが判明した。そのため、入院時血小板濃厚液(PC)20単位を輸血した。その後、3日目よりPC10単位を毎日4日間輸血することで完全に止血された。内科では、ETに対する治療として当科での治療終了後にヒドロキシウレアによる化学療法が開始され、血小板数は20〜30万/μLにコントロールされている。
通院歴の長い患者は、初診時に問診で既往歴を聞くが、その後、通院中に再度聞き直すことは少ない。ビスフォスフォネート製剤もそうであるが、初診時には罹患していなかった疾患が長い通院歴のなかで新たに生じている可能性もある。そのため、抜歯などの観血処置の際には再度の問診が重要である。