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2019年5月号 「舌痛を伴う嚥下困難」
4.Plummer-Vinson症候群

 Plummer-Vinson症候群は、鉄欠乏性貧血を背景として口腔粘膜の萎縮(とくに舌乳頭の萎縮による平滑舌)、舌痛(舌炎)や口角炎、食道粘膜の萎縮による嚥下障害を呈する疾患である。
 本症例では、舌痛、味覚低下、嚥下困難などの特徴的自覚症状に加え、両側口角の軽度びらん(口角炎、図3)や接触痛を伴う舌乳頭の萎縮(舌炎、平滑舌、図4)がみられ、さらに貧血を疑わせるような易疲労感や全身倦怠感を訴えている。また、口腔外所見として、貧血の際にみられる特徴的所見である顔色および眼瞼結膜の蒼白(図1)、手指の爪の変形(匙状爪またはspoon nail、図2)が認められている。臨床検査所見においては、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(HCT)、平均赤血球恒数(MCV、MCH、MCHC)、血清鉄(Fe)およびフェリチンの高度の低下が認められ、鉄欠乏性貧血の特徴的検査結果を示している。
 一方、Hunter舌炎においても平滑舌や味覚低下、舌痛などの口腔症状や典型的貧血症状がみられるが、この疾患の本態はビタミンB12の吸収障害により生じた悪性貧血であり、臨床検査所見においては大球性正色素性貧血(MCV・MCH↑、MCHC→)を示すことから鑑別可能である。また、口腔乾燥感を裏づけるように安静時唾液分泌量および刺激時唾液分泌量の低下が認められるが、リウマトイド因子(RF)、抗核抗体および抗SS-A/Ro抗体がいずれも陰性であることから、Sjögren症候群のような自己免疫疾患の存在は否定的である。
 鉄欠乏性貧血は小球性低色素性貧血(MCV↓、MCH↓、MCHC↓)の代表であり、最も頻繁に遭遇する貧血で、鉄欠乏によりヘモグロビンの合成低下を来したものである。原因としては、鉄摂取量の低下、鉄喪失の亢進、あるいは鉄需要の増大が考えられるが、最も多く注意すべき原因は消化管出血や子宮筋腫に伴う月経過多などである。このことから、歯科診療にあってPlummer-Vinson症候群またはそれを疑う患者に遭遇した場合には、下血など慢性的な出血がないかを慎重に問診することも極めて重要である。事実、本症例においても、医療面接において便通不良および黒色便の存在が把握されたため、消化器内科に精査を依頼したところ、肛門縁から15p口側に全周性の腫瘤が認められ、S状結腸がん(StageII)と診断された。
 わが国においては、高齢化の急速な進行を背景として、さまざまな全身疾患を有する患者や、何らかの全身的疾患に対して特殊な専門的治療を受けている患者を治療する機会が増加するものと予想される。このことから、全身疾患や専門的治療についての正確な知識を有し、患者の全身状態や治療内容についての情報を医師と適切に共有することのできる能力が、今後ますます必要とされるものと考えられる。


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