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2017年2月号 下唇部の知覚鈍麻
3.造血器腫瘍

  前記選択肢はすべて鑑別すべき疾患であるが、その後の経過により悪性リンパ腫(造血器腫瘍)が判明した症例である。

  本症例の特徴は、Numb chin症候群を呈し、顎領域に初発症状を呈した造血器腫瘍の症例であったことである。

  Numb chin症候群とは、下顎神経の末梢枝である下歯槽神経、オトガイ神経の障害によって生じるオトガイ部および下唇の知覚低下を生じる症候群と定義される。

  歯科治療に伴う医原性因子によるものが圧倒的に多いが、昨今ARONJ(骨吸収抑制薬関連顎骨壊死)の鑑別も重要となっている。そして本症例のように、悪性腫瘍を確実に鑑別することが大切である。

  本症例は、悪性リンパ腫により下歯槽神経障害を来したものと思われる。下歯槽神経障害を来す疾患を表1に示す。

  画像診断に際し、固形癌の場合は溶骨性変化など病的変化を来しやすいが、造血器腫瘍の場合は異常所見を指摘しづらいことに注意すべきである。また、Numb chin症候群を呈した症例の予後は一般的に悪く、平均生存期間は約7ヵ月、死亡率は約8割とする報告がある。

経過:下顎骨骨髄炎をまず疑い、抗菌薬の投与を開始した。症状は軽快傾向にあったが、寛解には至らなかった。初診より10日後、意識障害を呈し、当院救急部に搬送され、高Ca血症(Ca:15.5mg/dL)、急性腎障害(BUN:169mg/dL、Cre:2.99mg/dL)と診断された。その後、再度精査の結果、悪性リンパ腫(骨髄原発び漫性大細胞型B細胞リンパ腫)が判明し、血液内科にて入院加療となった。化学療法施行後、自家造血幹細胞移植を施行し、初診から11ヵ月、経過は良好である。

Take Home Message:Numb chin症候群など神経麻痺を呈する症状に対しては、積極的に悪性腫瘍を鑑別する必要がある(表2)。とくに造血器腫瘍の場合、診断に苦慮することがあり、安易に経過観察としないことが重要である。



表1 下歯槽神経障害を来す疾患
腫瘍 神経鞘腫、脳腫瘍、造血器腫瘍、頭頸部癌、髄膜腫
脳血管障害 脳動脈瘤、脳梗塞、脳出血
免疫系疾患 サルコイドーシス、SLE、血管炎、多発性硬化症、ベーチェット病
感染症 脳炎、髄膜炎、真菌症、結核、HIV、顎骨骨髄炎、歯性感染など
代謝性疾患 糖尿病、アミロイドーシスなど
医原性 抜歯などの歯科治療 浸潤麻酔によるオトガイ孔の刺傷
外傷 顎骨骨折など

表2 Numb chin症候群の原因となった悪性腫瘍の頻度
乳癌 40%
悪性リンパ腫 20%
前立腺癌 7%
白血病 5%

※造血器腫瘍および骨転移を来しやすい腫瘍が多い


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