局所麻酔時の患者の「熱い」という訴えの原因は?
●腫瘍切開において、局所麻酔を行った際、患者から「熱い」と言われたことが過去3回あります。なぜでしょうか。ちなみに使用した局所麻酔薬はシタネスト・オクタプレシン®でした。
──佐賀県・I歯科医院
局所麻酔は、さまざまな侵襲を患者に加えます。不安、不快感や恐怖などの精神的侵襲、局所麻酔薬そのものによる薬剤的侵襲、痛みなどの身体的侵襲です。
これらの侵襲は、血圧上昇などの循環変動や呼吸器症状を呈し、場合によっては全身的偶発症を引き起こします。実際、歯科治療時の全身的偶発症は局所麻酔前後が多いことが報告されています。このことは、歯科治療のなかでも局所麻酔時において、われわれ歯科医師は細心の注意を払う必要があることを示唆しています。
さて、患者が「熱い」と訴えた場合、生理学的には、顔面部分の血液量が増えていることが想定されます。顔面皮膚血管には「交感性血管収縮線維」に加えて、顔面領域に特有な副交感神経活動により血管拡張(血流増加)を起こす「副交感性血管拡張線維」が存在しています。これらの血管拡張線維は、脳に由来しており、大脳における精神活動状態と密接に関連しています。
また、顔面皮膚血管には、交感神経系賦活時に副腎髄質から血中に分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンの作用を受けた液性の血管拡張のメカニズムも報告されています。しかし、顔面の血管拡張反応が、交感・副交感どちらの神経性の反応なのか、または液性の反応なのか、あるいはこれらの組み合わせによる反応なのかについては、いまだ明確になってはいません。
具体的に考えられる「熱い」原因としては、可能性が高い順に、@患者が受けた精神的侵襲、A局所麻酔関連の痛み、B全身的合併症の一症状が挙げられます。
以下に、@〜Bについて解説します。
1.患者が受けた精神的侵襲
精神的な侵襲を抑えるには、患者と医療スタッフ間の信頼関係の構築が必要不可欠になります。
また、不安や恐怖を抑制しておくことがたいへん重要になります。不安や恐怖は痛み閾値を下げますが、「大丈夫」、「心配ない」と安心させることで、患者は痛み自体を感じにくくなります1)。そのほかに、不安や恐怖を弱める方法として、「静脈内鎮静法」などの精神鎮静法が有効になります。
2.局所麻酔関連の痛み
シタネスト・オクタプレシン®には、「フェリプレシン」という血管収縮薬が含まれています。しかし、この局所麻酔薬は高齢者に用いても、循環動態にはほとんど影響を及ぼしません。
その一方で、刺入時の痛みや注入中の痛みは、交感神経を興奮させる可能性があります。われわれは患者に痛みを与えないよう、表面麻酔薬の併用や局所麻酔薬を緩徐に注入するなどの工夫が必要になります。
3.全身的合併症
注意すべき全身的合併症に、局所麻酔によるアナフィラキシー(様)が挙げられます。アナフィラキシー(様)反応の諸症状のなかでも、皮膚症状は、大人で85%以上、小児で90%以上にみられる特徴的なもので、皮膚・粘膜症状の重症度は表1のように分類されています。
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いずれにせよ、いつ「熱感」を訴えても慌てないようにするためには、歯科治療前後のバイタルサイン測定を常時行うことが極めて大切になります。
表(1) アナフィラキシーの重症度分類(参考文献2)より引用改変)
【参考文献】
これらの侵襲は、血圧上昇などの循環変動や呼吸器症状を呈し、場合によっては全身的偶発症を引き起こします。実際、歯科治療時の全身的偶発症は局所麻酔前後が多いことが報告されています。このことは、歯科治療のなかでも局所麻酔時において、われわれ歯科医師は細心の注意を払う必要があることを示唆しています。
さて、患者が「熱い」と訴えた場合、生理学的には、顔面部分の血液量が増えていることが想定されます。顔面皮膚血管には「交感性血管収縮線維」に加えて、顔面領域に特有な副交感神経活動により血管拡張(血流増加)を起こす「副交感性血管拡張線維」が存在しています。これらの血管拡張線維は、脳に由来しており、大脳における精神活動状態と密接に関連しています。
また、顔面皮膚血管には、交感神経系賦活時に副腎髄質から血中に分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンの作用を受けた液性の血管拡張のメカニズムも報告されています。しかし、顔面の血管拡張反応が、交感・副交感どちらの神経性の反応なのか、または液性の反応なのか、あるいはこれらの組み合わせによる反応なのかについては、いまだ明確になってはいません。
具体的に考えられる「熱い」原因としては、可能性が高い順に、@患者が受けた精神的侵襲、A局所麻酔関連の痛み、B全身的合併症の一症状が挙げられます。
以下に、@〜Bについて解説します。
1.患者が受けた精神的侵襲
精神的な侵襲を抑えるには、患者と医療スタッフ間の信頼関係の構築が必要不可欠になります。
また、不安や恐怖を抑制しておくことがたいへん重要になります。不安や恐怖は痛み閾値を下げますが、「大丈夫」、「心配ない」と安心させることで、患者は痛み自体を感じにくくなります1)。そのほかに、不安や恐怖を弱める方法として、「静脈内鎮静法」などの精神鎮静法が有効になります。
2.局所麻酔関連の痛み
シタネスト・オクタプレシン®には、「フェリプレシン」という血管収縮薬が含まれています。しかし、この局所麻酔薬は高齢者に用いても、循環動態にはほとんど影響を及ぼしません。
その一方で、刺入時の痛みや注入中の痛みは、交感神経を興奮させる可能性があります。われわれは患者に痛みを与えないよう、表面麻酔薬の併用や局所麻酔薬を緩徐に注入するなどの工夫が必要になります。
3.全身的合併症
注意すべき全身的合併症に、局所麻酔によるアナフィラキシー(様)が挙げられます。アナフィラキシー(様)反応の諸症状のなかでも、皮膚症状は、大人で85%以上、小児で90%以上にみられる特徴的なもので、皮膚・粘膜症状の重症度は表1のように分類されています。
表(1) アナフィラキシーの重症度分類(参考文献2)より引用改変)
グレード1(軽症) | グレード2(中等症) | グレード3(重症) | ||
---|---|---|---|---|
皮膚・粘膜症状 | 紅斑・蕁麻疹・膨疹 | 部分的 | 全身性 | ← |
掻痒 | 軽い掻痒(自制内) | 強い掻痒(自制外) | ← | |
口唇、眼瞼腫脹 | 部分的 | 顔全体の腫れ | ← |
- 1)Oka S, Chapman CR, Kim B, Shimizu O, Noma N, Takeichi O, Imamura Y, Oi Y: Predictability of painful stimulation modulates subjective and physiological responses. The Journal of Pain, 11(3): 239-246, 2010.
- 2)柳田紀之,他:携帯用患者家族向けアレルギー症状の重症度評価と対応マニュアルの作成および評価.日本小児アレルギー学会誌,28(2):201-210,2014.
岡 俊一
●日本大学歯学部 歯科麻酔学講座