直接経口抗凝固薬投与患者の抜歯時の注意点
●近年、ダビガトラン服用患者が増えています。抜歯時などの外科処置に際し、ワルファリン使用時と注意点に違いはありますか?
──富山県・O歯科
1.経口抗凝固薬
抗血栓薬には抗血小板薬と抗凝固薬があります。日本で経口抗凝固薬といえば、長い間ワルファリンのみでしたが、2011年から新しい経口抗凝固薬が発売されました。これらは、ワルファリンがビタミンK拮抗薬として間接的に抗凝固作用を示すのに対し、血液凝固因子を直接的に阻害することにより抗凝固作用を示すため、直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)と呼ばれています。
現在、国内で発売されているDOACは4種類です(表1)。ダビガトランはトロンビン阻害薬で、他の薬剤はXa阻害薬です。
2.ワルファリンとDOACの違い
作用機序以外の違いを以下に解説します。ワルファリンは血液凝固に必要なビタミンKの働きを阻害することにより、間接的に抗凝固作用を示します。ビタミンKは納豆や緑黄色野菜に多く含まれており、それらの摂取によりワルファリンの効果が減弱することが問題となっていました。一方、DOACは食事による影響を受けません。
また、ワルファリンは服用するとすぐ効果を発現する薬剤ではなく、効果発現や消退に時間を要します(投与から十分な抗凝固効果が発現するまで36〜48時間、服用中止後も効果がなくなるまで48〜72時間要します)。一方、DOACは血中濃度に応じて効果が得られるため、効果の発現と消退がすみやかに得られます(内服後ピーク到達時間は2〜4時間、半減期は12時間程度です)。
ワルファリンは効果発現に個人差が大きいため、効果のモニタリング(月に1度程度のPT-INRの測定)が必要ですが、DOACは効果の個人差は小さく、腎機能を考慮した用量により安定した効果が得られるため、モニタリングは不要です。 以上のような利点から、DOACは広く用いられるようになっています。
3.DOAC内服患者の抜歯1)
ワルファリンと同様に、DOAC単剤による抗凝固療法を受けている患者においても、普通抜歯の際は薬剤投与下で行うことが推奨されています。ただし、適切な局所止血処置が必要です。DOACでは、薬剤の血中濃度の減衰と関連して抗血栓効果が経時的に低下すると考えられることから、DOAC内服後6時間以上経過した後で抜歯することも勧められています2)。
また、ワルファリンでは鎮痛薬や抗菌薬の大量および長期投与により、抗凝固作用が高まって、出血性合併症の危険性が危惧されることがあります。しかし、DOACでは鎮痛薬やマクロライド系を除く抗菌薬の投与によって、重篤な出血性合併症の増加には繋がらないと考えられています。
【参考文献】
抗血栓薬には抗血小板薬と抗凝固薬があります。日本で経口抗凝固薬といえば、長い間ワルファリンのみでしたが、2011年から新しい経口抗凝固薬が発売されました。これらは、ワルファリンがビタミンK拮抗薬として間接的に抗凝固作用を示すのに対し、血液凝固因子を直接的に阻害することにより抗凝固作用を示すため、直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)と呼ばれています。
現在、国内で発売されているDOACは4種類です(表1)。ダビガトランはトロンビン阻害薬で、他の薬剤はXa阻害薬です。
表(1) 現在、国内で市販されている直接経口抗凝固薬(DOAC)
一般名 | ダビガトラン | リバーロキサバン | アピキサバン | エドキサバン |
---|---|---|---|---|
製品名 | プラザキサ | イグザレルト | エリキュース | リクシアナ |
作用機序 | トロンビン阻害薬 | Xa阻害薬 | ||
内服回数 | 1日2回 | 1日1回 | 1日2回 | 1日1回 |
血中濃度 半減期 |
12〜14時間 | 9〜13時間 | 8〜15時間 | 6〜11時間 |
中和薬 | あり | なし | なし | なし |
2.ワルファリンとDOACの違い
作用機序以外の違いを以下に解説します。ワルファリンは血液凝固に必要なビタミンKの働きを阻害することにより、間接的に抗凝固作用を示します。ビタミンKは納豆や緑黄色野菜に多く含まれており、それらの摂取によりワルファリンの効果が減弱することが問題となっていました。一方、DOACは食事による影響を受けません。
また、ワルファリンは服用するとすぐ効果を発現する薬剤ではなく、効果発現や消退に時間を要します(投与から十分な抗凝固効果が発現するまで36〜48時間、服用中止後も効果がなくなるまで48〜72時間要します)。一方、DOACは血中濃度に応じて効果が得られるため、効果の発現と消退がすみやかに得られます(内服後ピーク到達時間は2〜4時間、半減期は12時間程度です)。
ワルファリンは効果発現に個人差が大きいため、効果のモニタリング(月に1度程度のPT-INRの測定)が必要ですが、DOACは効果の個人差は小さく、腎機能を考慮した用量により安定した効果が得られるため、モニタリングは不要です。 以上のような利点から、DOACは広く用いられるようになっています。
3.DOAC内服患者の抜歯1)
ワルファリンと同様に、DOAC単剤による抗凝固療法を受けている患者においても、普通抜歯の際は薬剤投与下で行うことが推奨されています。ただし、適切な局所止血処置が必要です。DOACでは、薬剤の血中濃度の減衰と関連して抗血栓効果が経時的に低下すると考えられることから、DOAC内服後6時間以上経過した後で抜歯することも勧められています2)。
また、ワルファリンでは鎮痛薬や抗菌薬の大量および長期投与により、抗凝固作用が高まって、出血性合併症の危険性が危惧されることがあります。しかし、DOACでは鎮痛薬やマクロライド系を除く抗菌薬の投与によって、重篤な出血性合併症の増加には繋がらないと考えられています。
- 1)日本有病者歯科医療学会,他:抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版.学術社,東京,2020.
- 2)Yoshikawa H, et al: Safety of tooth extraction in patients receiving direct oral anticoagulant treatment versus warfarin: a prospective observation study. Int J Oral Maxillofac Surg, 48: 1102-1108, 2019.
栗田 浩
●信州大学医学部 歯科口腔外科学