中高年の矯正治療時に気をつけることは?
●40〜60代の矯正治療が増えています。その際の適応症と注意点を教えてください。
──山形県・O歯科医院
矯正治療は、中高年においても審美的・機能的な改善方法として非常に有効な治療手段となることがあります。しかし、中高年の矯正治療は、矯正専門医にとっても10代の矯正治療と比べると非常に難しいと考えます。歯周治療や根管 治療、補綴治療が必要な場合も多く、矯正治療が単独で完結する場合は少なく、トータルの期間が長くなることや、費用がかさむこともあり、術者と患者の双方にとってもリスクが高くなります。
そこで、術者にはよりいっそうの配慮と多分野にわたる知識が求められます。まず治療を開始する前に、あらかじめ個々の患者の問題点を洗い出し、防げるリスクは未然に防ぎ、起こり得るリスクについては説明しておく義務があります。
初診で問題点を見落としてしまうと、矯正治療中、または治療後の口腔健康のトラブルを発生させて、かえって健康を害してしまう可能性も考えられます。
1.中高年の矯正治療を始める前の注意点
1)歯周病の管理ができていること
近年、矯正移動が歯周組織に与える悪影響に関して関心が高まっています。
IOS(包括的歯科研究会)が独自に行った調査では、都内のクリニックに矯正治療を希望に来院された患者のうち、6mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は、30代で50%を超えていました。矯正治療を希望する患者における、歯周疾患罹患率は高くなっており、30代以降の患者では矯正治療前の適切な歯周組織検査ならびに歯周基本治療は重要となります1)。
2)う蝕・補綴・根管治療への問題がないこと
歯の保存が可能か進行するう蝕はないかどうか含めて検査します。そして、進行性のう蝕は処置する必要があります。根管治療のタイミング、最終的な補綴治療のデザインなどの設計を矯正治療の治療計画に加味して、戦略的に考える必要があります。
3)その他(顎関節症、全身疾患、心理的要因など)
咬合と顎関節症、全身疾患の関連性を事前に十分に説明し、場合によっては専門医との連携を事前に構築する必要があります。心理的要因が大きい場合は、治療しないという選択肢もあります。
2.難易度の判定
難易度の判定として、表1の5点を含む矯正治療はより難易度が高まります。
まずは矯正治療の難易度を考慮し、困難な場合、より高度な治療を行う専門家に託すことも選択肢の一つとして考えてもよいのではないでしょうか。他分野の専門家同士で協力する必要がある場合、最初に同じ設計図を描き、同じゴールを目指す必要があります。
表(1) 包括的成人矯正歯科分類(綿引の分類より)
(参考文献より引用改変)
3.中高年特有の注意点
生体への適応力が若年者よりも低下していると考えられる40代以降の矯正治療では、矯正治療による無理な拡大などにより、歯肉退縮を引き起こす可能性も高いため、歯の移動に歯周組織が耐えられるかどうかの事前の判断が重要となります。
また長期にわたる治療の間に、信頼関係を失うことのないよう細心の注意を払い、最終的に矯正治療を通じてQOLの向上に貢献できればいちばんよいのではと考えます。きれいになった歯と咬み合わせで、その後の人生をより幸せに過ごしていただくためにも、われわれ歯科医師の責任は大きく、またやりがいがある治療ではないでしょうか。
【参考文献】
そこで、術者にはよりいっそうの配慮と多分野にわたる知識が求められます。まず治療を開始する前に、あらかじめ個々の患者の問題点を洗い出し、防げるリスクは未然に防ぎ、起こり得るリスクについては説明しておく義務があります。
初診で問題点を見落としてしまうと、矯正治療中、または治療後の口腔健康のトラブルを発生させて、かえって健康を害してしまう可能性も考えられます。
1.中高年の矯正治療を始める前の注意点
1)歯周病の管理ができていること
近年、矯正移動が歯周組織に与える悪影響に関して関心が高まっています。
IOS(包括的歯科研究会)が独自に行った調査では、都内のクリニックに矯正治療を希望に来院された患者のうち、6mm以上の歯周ポケットを有する者の割合は、30代で50%を超えていました。矯正治療を希望する患者における、歯周疾患罹患率は高くなっており、30代以降の患者では矯正治療前の適切な歯周組織検査ならびに歯周基本治療は重要となります1)。
2)う蝕・補綴・根管治療への問題がないこと
歯の保存が可能か進行するう蝕はないかどうか含めて検査します。そして、進行性のう蝕は処置する必要があります。根管治療のタイミング、最終的な補綴治療のデザインなどの設計を矯正治療の治療計画に加味して、戦略的に考える必要があります。
3)その他(顎関節症、全身疾患、心理的要因など)
咬合と顎関節症、全身疾患の関連性を事前に十分に説明し、場合によっては専門医との連携を事前に構築する必要があります。心理的要因が大きい場合は、治療しないという選択肢もあります。
2.難易度の判定
難易度の判定として、表1の5点を含む矯正治療はより難易度が高まります。
まずは矯正治療の難易度を考慮し、困難な場合、より高度な治療を行う専門家に託すことも選択肢の一つとして考えてもよいのではないでしょうか。他分野の専門家同士で協力する必要がある場合、最初に同じ設計図を描き、同じゴールを目指す必要があります。
表(1) 包括的成人矯正歯科分類(綿引の分類より)
(参考文献より引用改変)
1.ペリオやエンドの問題を伴う |
2.欠損歯の有無 |
3.歯肉退縮等の存在 |
4.骨格的要因を含む |
5.全身的な要因 |
生体への適応力が若年者よりも低下していると考えられる40代以降の矯正治療では、矯正治療による無理な拡大などにより、歯肉退縮を引き起こす可能性も高いため、歯の移動に歯周組織が耐えられるかどうかの事前の判断が重要となります。
また長期にわたる治療の間に、信頼関係を失うことのないよう細心の注意を払い、最終的に矯正治療を通じてQOLの向上に貢献できればいちばんよいのではと考えます。きれいになった歯と咬み合わせで、その後の人生をより幸せに過ごしていただくためにも、われわれ歯科医師の責任は大きく、またやりがいがある治療ではないでしょうか。
- 1)R. Ono, J. Watahiki, et al: Prevalence of periodontal disease in adult patients with chief complaint of malocclusion. European orthodontic society congress, 2019.
- 2)綿引淳一:“包括的矯正治療”へのいざない.the Quintessence,38(7):1486-1502,2019.
内藤聡美
●東京都・さとみ矯正歯科