歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
TopQ&A法律 > 認知機能の衰えた高齢患者への治療(2018年8月号)
Q&A
法律(2018年8月号)
Q認知機能の衰えた高齢患者への治療
●当院に長年通っている90歳の患者がインプラント治療を希望されました。1人で歩いて来院しており、身体的にはしっかりしていると思います。しかし、治療内容に関してやり取りしていると、認知機能が衰えてきていると感じます。このまま患者の希望どおりに治療を進めた場合、ご家族からクレームや治療費の返金を求められたりするのではと心配です。どのように対応すればよいでしょうか。
── 千葉県・A歯科クリニック
A
 歯科診療契約を含む契約全般を1人で有効に締結するためには、当事者に「行為能力」が必要です。行為能力は原則として誰にでも備わっていますが、法律上、行為能力がない、または行為能力が制限されている場合もあります。具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人および被補助人がこれに該当します。
 成年後見、保佐および補助は、認知症等の精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く、または不十分な常況にある者が、家庭裁判所の審判を受けることによって開始されます。この審判手続きは、当事者または一定の関係者からの申立てによって始まります。成年後見、保佐または補助開始の審判を受けると、その旨が登記され、全部または特定の法律行為につき、単独では有効に行えなくなります。
 このように、患者が成年被後見人、被保佐人または被補助人となっていれば、患者本人の同意だけで治療を進めることは不適切ですので、わかりやすいといえます。しかし、これらの審判を受けていなくとも、行為能力に問題がある人も多々います。このような人と漫然と契約を締結した場合、のちに行為能力の不存在を理由として、関係者から契約の無効や取り消しが主張される可能性があります。
 もっとも、成年被後見人、被保佐人または被補助人となっていない人の行為能力の有無を判断する画一的な基準はありません。そのため、たとえば、患者が治療内容や費用を十分に理解していない可能性がある、日常会話等のやり取りが円滑に行えないなどといった行為能力に疑いを抱かせる事情がある場合には、患者本人の同意だけで治療を進めることには慎重になったほうがよいでしょう。
 成年被後見人、被保佐人または被補助人の登記の有無は患者に直接確認しづらいでしょうし、また、行為能力に疑問がある患者から治療内容等についていくら同意をもらっても法的には無意味となる可能性があります。そのため、いずれにしても患者の家族に確認することが適切です。
 なお、ご存じのとおり、高齢者が寝たきりとなりインプラントが使用されなくなった場合、埋入されたインプラントの処置が問題となることがあります。患者は90歳ですので、要介護状態となることも想定すべき年齢と思われます。そのため、そもそもインプラントが治療法として適切かどうかといった観点からも、家族を含めて丁寧に説明し、検討することが求められます。

井上雅弘
銀座誠和法律事務所

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
<<法律一覧へ戻る
※過去に制作したものなので、現在の法令と異なる場合がございます。
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド