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Q&A
法律(2016年5月号)
Q カルテの保管期間
●カルテがだいぶ溜まってきたので、来院が途絶えた患者のものは処分したいと思っています。カルテの保管期間は5年とされていますが、それ以上経過したものは廃棄してもよいのでしょうか。または、もう数年は残しておいたほうがよいのでしょうか。
── 石川県・A歯科医院
A
  歯科医師には、5年間のカルテ保管義務が課せられています(歯科医師法23条2項)。起算日は、最後の診療日と考えられています。本規定は、あくまで保管義務期間を定めたものであって、最終診療日から5年を超えたカルテの保管について、歯科医師法上の規定はありません。したがって、法律上は、廃棄してもしなくとも、どちらでも構いません。
  もっとも、カルテは、万一患者から医療訴訟を提起された場合、歯科医師にとって極めて重要な証拠になります。また、医療訴訟でなくとも、たとえば、矯正治療などの中断による支払い済み診療費の返還請求訴訟においても、診療を実施したことはカルテによって立証するしかありませんので、重要性は医療訴訟と変わりません。
  そして、医療訴訟、すなわち患者の歯科医師に対する損害賠償請求訴訟は、一般的に、不法行為にもとづく損害賠償請求権と、債務不履行(診療契約にもとづいて適切な診療をしなかったこと)にもとづく損害賠償請求権が選択的に主張されます。不法行為にもとづく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者などが損害および加害者を知ったときから3年ですが、債務不履行にもとづく損害賠償請求権は、権利行使可能なときから10年です。
  また、診療費返還請求訴訟は、不当利得にもとづく返還請求であり、この返還請求権の消滅時効は、債務不履行と同様に権利行使可能なときから10年です。
  そのため、当事務所では、歯科医師の先生方に対し、将来の訴訟リスクに備えるため、保管スペースが許すのであれば、最終診療日から最低10年間はカルテを保管することをお勧めしています。
  なお、不法行為には、消滅時効のほかに除斥期間の定めもあります。除斥期間は、中断の有無などが消滅時効と異なりますが、一定期間が経過すると権利が消滅する点で共通しています。不法行為にもとづく損害賠償請求権の除斥期間は、不法行為時から20年です。そのため、論理的には、最終診療日から20年間はカルテを保管することが望ましいとも思えます。
  しかし、歯科診療における被害とは、通常は口腔内において生じた、または解消されなかった不具合であり、診療終了後ただちに、または短期間で患者が自覚できるものです。そのため、被害や加害者を知るのは診療終了後、さほど期間が経過しない時点であるのが通常であり、そしてその時点から3年の消滅時効が進行しますので、除斥期間の20年はカルテの保管との関係では無視して問題ないと考えられます。なお、保険カルテには保険点数が記載され、また自費カルテには診療費が記載されることもあります。そして、税法上、経理・税務関係書類の保管期間は7年とされています。そのため、カルテを診療費に関する証憑書類と捉えるのであれば、7年間の保管義務があることになります。
  カルテ以外の医療記録については、法律上、処方箋、手術記録、検査所見記録、X線写真、入院患者および外来患者の数をあきらかにする帳簿等の保管期間は2年間(医療法21条1項9号、同法施行規則20条10号)、保険医療機関においては3年間とされています(保険医療機関及び保険医療養担当規則9条)。歯科衛生士の記録は3年間です(歯科衛生士法施行規則18条)。しかし、同様の理由から、可能であれば、これらも最低10年間の保管をお勧めします。

井上雅弘銀座誠和法律事務所

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