運転免許の取得は指示できるのか
●訪問診療を始めたいのですが、当院には自動車を運転できるスタッフがいません。スタッフに対し、来院数が少ない日や休日、有給休暇などを利用して運転免許を取得するように指示できるのでしょうか。また、訪問診療中の運転で、スタッフが事故を起こしたり、スピード違反などを犯した場合、スタッフ自身や医院の責任はどのようになりますか。
── 広島県・K歯科医院
スタッフに対し、運転免許の取得を指示すること自体は可能です。患者さんの来院数が少ない日に、教習所通いなどを指示することも一般的には可能です。ただし、運転免許証の取得が業務上の指示に基づく以上、取得のための行為は労働です。そのため、教習所に通った日などについても、所定の給与を支給する必要があります。
休日については、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いが必要となりますが、就業規則の規定やスタッフの個別的同意などによって可能となり得ます。もっとも、休日に教習所通いなどを指示する代わりに、あらかじめ他の労働日を休日とする、いわゆる振替休日を設けた場合であり、かつ、労働基準法の定める法定休日(毎週少なくとも1回の休日、または4週間を通じて4日の休日)が確保できる場合であれば、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いは不要です。
有給休暇(年次有給休暇)については、有給休暇日の過ごし方は労働者の自由です。そのため、運転免許証の取得のため有給休暇を取得・使用させることはできません。
以上を簡単にまとめると、運転免許の取得を業務上指示する以上、スタッフが費やす時間は労働時間であり、医院からはしかるべき給与の支払いが必要になります。なお、運転免許の取得を業務上指示するのではなく、運転免許の取得者には手当や報奨金などを支給することとし、スタッフによる自発的な取得を促進する方法もあります。スタッフの意向を確認しつつ、運転免許取得時の費用と取得後の手当などの額を比較し、合理的な方法を選択されるのがよいと思います。
次に、訪問診療中の運転で、スタッフが事故を起こしたり、スピード違反などを犯した場合の責任についてです。まず、スタッフの責任は、自らが事故を発生させ、または違反した以上、当然に発生します。このことは、運転免許の取得が業務上の指示に基づくか否かとは関係しません。
医院(個人であれば院長、法人であれば医療法人社団)の責任は、スタッフが事故を起こして第三者に損害を与えた場合には、使用者責任に基づき、医院はスタッフと連帯して賠償責任を負う可能性が高いといえます。使用者責任とは、事業のために他人を使用する者(使用者)は、被用者(労働者)がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合、その損害を賠償しなければならないとするものです(民法715条1項本文)。
訪問診療中の事故であれば、まず間違いなく、「その事業の執行について」と評価されます。そのため、運転免許の取得を指示したかどうかはあまり関係ないのですが、一応、事故を起こしたスタッフが指示に基づいて取得した事実は、「その事業の執行について」の該当性判断に際してプラスの事情になります。すなわち、運転免許取得の指示は、スタッフが交通事故を起こした場合、医院も責任を負う可能性が高くなる事情といえます。
なお、使用者責任は、あくまで第三者に損害が発生した場合の規定です。スピード違反などの第三者に損害が発生しない違反行為については、単に運転していたスタッフが責任を負うだけであり、医院は責任を負いません。
休日については、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いが必要となりますが、就業規則の規定やスタッフの個別的同意などによって可能となり得ます。もっとも、休日に教習所通いなどを指示する代わりに、あらかじめ他の労働日を休日とする、いわゆる振替休日を設けた場合であり、かつ、労働基準法の定める法定休日(毎週少なくとも1回の休日、または4週間を通じて4日の休日)が確保できる場合であれば、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いは不要です。
有給休暇(年次有給休暇)については、有給休暇日の過ごし方は労働者の自由です。そのため、運転免許証の取得のため有給休暇を取得・使用させることはできません。
以上を簡単にまとめると、運転免許の取得を業務上指示する以上、スタッフが費やす時間は労働時間であり、医院からはしかるべき給与の支払いが必要になります。なお、運転免許の取得を業務上指示するのではなく、運転免許の取得者には手当や報奨金などを支給することとし、スタッフによる自発的な取得を促進する方法もあります。スタッフの意向を確認しつつ、運転免許取得時の費用と取得後の手当などの額を比較し、合理的な方法を選択されるのがよいと思います。
次に、訪問診療中の運転で、スタッフが事故を起こしたり、スピード違反などを犯した場合の責任についてです。まず、スタッフの責任は、自らが事故を発生させ、または違反した以上、当然に発生します。このことは、運転免許の取得が業務上の指示に基づくか否かとは関係しません。
医院(個人であれば院長、法人であれば医療法人社団)の責任は、スタッフが事故を起こして第三者に損害を与えた場合には、使用者責任に基づき、医院はスタッフと連帯して賠償責任を負う可能性が高いといえます。使用者責任とは、事業のために他人を使用する者(使用者)は、被用者(労働者)がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合、その損害を賠償しなければならないとするものです(民法715条1項本文)。
訪問診療中の事故であれば、まず間違いなく、「その事業の執行について」と評価されます。そのため、運転免許の取得を指示したかどうかはあまり関係ないのですが、一応、事故を起こしたスタッフが指示に基づいて取得した事実は、「その事業の執行について」の該当性判断に際してプラスの事情になります。すなわち、運転免許取得の指示は、スタッフが交通事故を起こした場合、医院も責任を負う可能性が高くなる事情といえます。
なお、使用者責任は、あくまで第三者に損害が発生した場合の規定です。スピード違反などの第三者に損害が発生しない違反行為については、単に運転していたスタッフが責任を負うだけであり、医院は責任を負いません。
井上雅弘●銀座誠和法律事務所