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Q&A
矯正 (2014年09月号)
Q 舌癖の指導方法
●小児の患者さんで、舌癖が強く、前歯に隙間がある方がいます。矯正器具を使う前に、まず舌癖を治したいと思っています。子どものやる気を出す、よい指導方法をお教えください。
──京都府・Sデンタルクリニック
A
  当該の患者啓発について明確なアドバイスを差し上げることは困難ですが、当院で行っている方法の概略をもって回答とさせていただきます。
当院における患者啓発
 当院での初診患者への対応としては、初診時において、患者から主訴を聴き各種問診をすること以外に、不正咬合の治療のためにあらゆる習癖を改善する重要性について、患者がいかに感動をもって説明を受け止めてくれ、患者自身のやる気を起こさせるきっかけとなるかに重点を置いています。そのため、初診時の説明に精力を注いでいます。
  15年前から患者への態癖指導を行っていますが、ここ10年間はトリートメントコーディネーター(以下、TC)が、患者に実際に3kgの鉄アレイを持たせて頭の重さを実感してもらったうえで、以下の項目に従って、態癖の悪影響の啓発を目的とした患者説明を行っています1,2)
(1)バッカルコリダー
 矯正治療前と矯正治療後の顔面写真を用い、矯正治療前は口角部分が黒く抜けて見えるのに対して、内側(舌側)に倒れている歯を拡大し、整直させた治療後は、黒い部分が消失して口いっぱいに歯が見えていて、歯列が狭い治療前のスマイルラインと違うことを説明し、治療後の好ましいスマイルへの感心を誘うための動機づけとします。また、歯列の整直だけで劇的な咬合の改善が認められた症例をみせることで、歯の傾斜と不正咬合の発現が、外力のひとつである態癖と大きな関係があると理解させることを目的とします。
(2)態癖改善の啓発オリジナルプレゼンテーション(約7分間:ナレーションつき)
(3)舌癖、嚥下、姿勢位および呼吸指導
  歯が力の中立帯に並ぶということを(2)のプレゼンテーションで理解をさせたあと、内側からの力として、舌運動について説明します。
  正常嚥下と異常嚥下の違いについて、動画を併用して説明し、実際にガムを用いたガムトレーニング実習も行っています。実習方法としては、近藤3)のガムトレーニングをすべての患者に指導し、そのなかで、ガムを丸めることができない、あるいはスポットポジションにガムを位置づけできない患者について、選択的にMFTを行うようにしています。
  また、肩の裏の筋肉が硬くなっている人は、正しい姿勢ができなかったり、睡眠時にどうしても丸まって寝てしまう傾向にあるようなので、対症療法的に整体を紹介することもあります。さらに、不適切な離乳食、幼児食の与え方が舌癖を引き起こす可能性が高いことも説明します。また、患者の興味を引くことも考え、「ペペロンチーニ」という合い言葉を使ったスマイルトレーニングや、「ラララの位置」、「レレレの位置」を用いてスポットポジションの指導にも工夫をしています。
(4)早期治療のプレゼンテーション
(5)態癖の詳しいプレゼンテーション
  態癖指導だけで歯列や咬合の劇的な改善が認められた11症例を準備しています。不正咬合を改善するためには、態癖を改善することが必要であるという念押しを行うことを目的とします。
(6)顎関節の説明
 開閉口運動ととも、関節窩の中で新鮮死体の下顎頭が動く様子を示した動画を用いて、正常な顎関節の解剖とともにクリックや顎関節痛発現の理由を理解させ、態癖が顎関節症や下顎頭の形態変化、さらに下顎頭の位置変化と機能的顎偏位の原因になり得ると理解させることを目的とします。
  さまざまな性格の患者の理解を得るとともに、モチベーションが下がらないような啓発と指導を続けることは、患者にもスタッフにも労力がかかることです。しかし、種々の習癖を改善し、「本来の自分自身の形態に近づけたい」という患者の奮起を促すためには、いかに患者を感動させ、やる気を起こさせるきっかけとなる説明ができるかどうかが重要であると考えています。そのため、初診時から矯正開始までの間、さらに、矯正治療中の各ステージにおいて、患者説明用の写真記録も必要であり、膨大な量の写真データの整理方法にも配慮が必要です。
  また、患者啓発は、できることなら患者と出会った最初の機会が肝心で、そのときの啓発指導の度合いいかんで矯正歯科治療のみならず、歯科治療全般の結果が大きく左右されるとさえ考えています。
まとめ
  口腔周囲の悪習癖や態癖を改善するには、患者さんの協力が必要です。その成功の鍵は 、「いかにして患者さんに感動を与え、前向きな反応を引き出すことができるかを見出すこと」だと考えています。
  私たちは、説明が右から左に聞き流されず、私たちの使う言葉と調子が重要な言霊となって「患者さんを励まし、動機づける」、「患者さんの心の内面に入っていき、力を与える」すなわち「スイッチを入れる」、そんなアプローチ方法を身につけたいと日々、患者さんと接しながら考えています。 スタッフ一人ひとりの知識や経験の集積や心がけはもちろん、各医院に適した院内システムを創りながら、医院ぐるみで悪習癖についての患者啓発を行うことが重要であると思います。
【参考文献】
1) 小川晴也:小児歯科における姿勢・態位への取り組み.小児歯科臨床,16(8):20-30,2011.
2) 岡崎綾子:当院で行っている態癖ならびに口腔周囲の悪習癖改善への取り組みについて.日本臨床矯正歯科医会雑誌,26(1).(平成26年9月末発行予定)
3) 近藤悦子:Muscle Wins!の矯正歯科臨床.医歯薬出版,東京,2007:26-33.

小川晴也小川矯正歯科

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