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Q&A
歯科一般 (2014年8月号)
Q 思春期の女子に起こる原因不明の痛み
●思春期の女子(稀に男子)の上顎第1、第2小臼歯に、う蝕等の病態がない天然歯であるにもかかわらず、原因不明の痛みが発生することがあるのですが、考えられる原因およびその対処法についてお教えください。
──岐阜県・W歯科
A
  患者さんの年齢、歯の疼痛の部位を考慮すると、以下のようなことが考えられると思われます。
(1)中心結節破折:中心結節は、小臼歯に時にみられます。大野ら1)の報告では、下顎では、上顎の2.5倍みられたとされています。すなわち、上顎の小臼歯にも中心結節が存在します。中心結節の直下まで歯髄腔があり、この破折より歯髄炎、急性化膿性歯周炎、顎骨骨膜炎を生じることがあります。歯髄が壊死し、歯根周囲に炎症像があれば、根管治療が必要になります。
  中心結節の破折が原因で、下顎骨に歯根嚢胞が形成され、全身麻酔下での摘出が必要な例もあります3)。結節の破折が原因で下顎骨骨膜炎まで進展した病変では、歯髄は壊死していることが推定されます。通常は根管処置が考えられますが、若年者の例で歯髄を保存して経過観察したところ、歯根の形成が進んできた例があります4)
(2)外傷性咬合:歯列不正のため、咬合により小臼歯の歯周組織に炎症を来し、疼痛が誘発されることも推測されます。中心咬合位と側方運動時の歯の接触状況を咬合紙でチェックします。患者さんに、顎の側方運動をしてもらい、歯科医師は小臼歯頬側に指を当てれば異常な動きの有無を評価できると思います。この場合は不正咬合に対して歯列矯正治療を検討する、異常な接触点の削合、などが考えられると思われます。
(3)知覚過敏症:冷水、乾燥、擦過、浸透圧変化などにより誘発される疼痛がみられ、これらは小臼歯に多いとされています。知覚過敏症では象牙質細管が開口していているため、その閉鎖目的に各社より販売されている知覚過敏症用充填材を塗布する、知覚過敏症用歯磨剤の使用を勧める、などが考えられます5)
(4)象牙質亀裂:咬合、不良修復物、外傷などが原因で象牙質を主体とした構造的な亀裂が生じることがありますが、X線的には確認できません。温度的変化で痛みが誘発される症状を呈することがあり、これはCracked tooth syndromeと呼ばれています。歯髄に異常がない場合は、亀裂のずれ、拡大の波及防止のため、早期の被覆が勧められるとの報告6)がありますが、亀裂が明確ではない場合、それに踏み切るにはためらわれるかもしれません。
(5)非歯原性歯痛:歯が原因ではない疼痛として、心臓由来の歯痛、三叉神経痛など神経性の歯痛、ヘルペス後の歯痛などがありますが、これらは上顎小臼歯部にはないと思われます。
  非歯原性歯痛として、筋・筋膜由来の歯痛が挙げられます。これは「ズーンとした痛み(鈍痛)が上下の臼歯部に持続している」という症状です。咀嚼筋群の疲労により、筋中にトリガーポイントができる関連痛です。筋の触診を行い、トリガーポイントを圧迫することで歯痛が再現されれば診断がつきます。
  また、筋への局所麻酔で歯痛が消失すれば、より確定できます7)。これが原因なら、咀嚼筋群の疲労を回避することが必要になると思われます。
【参考文献】
1) 大野紘八郎,野村高志,他:永久歯の異常結節の発現頻度とその対応法に関する研究.小歯誌,34:842-848,1996.
2) 甲原玄秋:中心結節の破折から生じた歯根嚢胞と下顎骨骨膜炎の2例.小児歯誌,40:863-868,2002.
3) 甲原玄秋:─X線画像を読み解き対応を考える─中心結節の破折後に生じた歯根嚢胞.デンタルダイヤモンド,37(2):12-15,2012.
4) 甲原玄秋:感染後も歯根が発育した幼若永久歯.デンタルダイヤモンド,36(7):14-17,2011.
5) 吉山昌宏:楔状欠損と歯根露出による知覚過敏の発症原因とその対応法.補綴臨床,44:355-365,2011.
6) 勝海一郎,中村恭政:22. 歯の破折、亀裂の臨床例(その3).歯学,75:424-425,1987.
7) 市川貴子,石井隆資:非歯原性歯痛を知る 原因不明の歯痛の分類.歯学98巻秋期特集号,9-12,2010.

甲原玄秋千葉県こども病院

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