頰筋

 頰筋は表情筋の1つで口輪筋に停止し、その機能は口角を外側に引くという本来の表情筋としての作用の他に、咀嚼時に頰粘膜を緊張させて歯列に押し付ける咀嚼運動と連動した機能も有している特殊な筋肉である。
歯科教育では、総義歯の人工歯をニュートラルゾーンに配列するように指導される。このニュートラルゾーンは、口蓋側からの舌圧と頰側からの頰筋の圧力の均衡する領域である。このように、頰筋の存在・機能についてはみなさんもよく知っているはずである。
1.起始停止
起始:上顎骨の大臼歯部における歯槽突起頰側面と、下顎骨の大臼歯部頰側面の頰筋稜
停止:口輪筋に合流
2.神経支配
頰筋は顔面神経の頰筋枝により支配されている。三叉神経第3枝の枝に頰神経があり、咀嚼筋である外側翼突筋の運動神経支配をしている。咀嚼筋はすべて、三叉神経の枝である下顎神経の支配で、表情筋はすべて顔面神経の支配で、顔面神経の枝の頰筋枝と三叉神経の枝の頰神経は別物である。
3.頰筋の臨床的側面
頰筋は表情筋としてだけでなく、咀嚼時に頰粘膜を歯列に押し付ける咀嚼運動と連動した機能も有していることから、顔面神経麻痺で咀嚼時に頰粘膜が緊張することができなくなると誤咬が生じたり、食塊が口腔前提に貯留したりすることになる。
通常、顔面神経麻痺の場合には表情筋の麻痺により顔貌変化が生じて気づかれやすいが、顔面の表情筋にはまったく症状がなく、頰筋のみの麻痺の場合には顔面神経麻痺と気がつかない。補綴治療等のきっかけがないのに、急に頰粘膜の誤咬を訴えて来院した場合や、歯科治療中の患者で食塊の口腔前庭貯留が認められた場合には顔面神経麻痺を疑うべきで、これが口腔顔面痛的顔面神経麻痺診断ともいえる。

デンタルダイヤモンド
2023年2月号
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