はじめに:歯科専門税理士が教える 利益最大化&給与最大化の医院経営術|本のエッセンス

歯科専門税理士が教える 利益最大化&給与最大化の医院経営術 タイトル

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、歯科専門税理士が教える 利益最大化&給与最大化の医院経営術です。

ゼネラルデンタルカタログ

はじめに

最高の人材を確保し、彼らに投資することが、最終的には最高のリターンをもたらす

 私は現在、歯科医院専門の税理士事務所を経営している。お客様はほぼ100%歯科医院。そして、2024年現在、約48%のクライアントが「年商1億円」を達成している。2019年には『年商1億円医院の設計図』という書籍を執筆し、その年の歯科業界でのベストセラーとなった。それを読んで年商1億円が決して夢の数字ではないことがわかり、年商1億円を目指してきた先生も多いだろう。
 しかしそのちょうど1年後、誰もが予想しない事態に遭遇する。新型コロナウイルス感染症のパンデミックである。これにより、歯科医院の経営も大きくダメージを受けた。ちょうど流行が始まった4月ごろには街には誰もいなくなっていたのだから当然だ。当時は売上が2~3割落ちるのが当たり前で、歯科医院専門でやってきた私も「これは大変なことになる」と思ったものだ。しかし、その影響も日が経つにつれて落ち着き、その翌年には過去最高売上をたたき出す歯科医院が続出した。
 それではなぜ過去最高の売上になったのか。その最も大きな理由は「コロナ融資」である。この時期はこの状況がいつまで続くのかまったく誰も予想がつかなかった。そのためクライアントの先生には、「とにかく高台に逃げてください」とお伝えし、借入による手元資金を厚くしてもらった。
 また、コロナ融資はとくに医療機関には優しく、ほとんど審査もなしに多額の借入が実現できた。そして、意外と売上が落ちないということがわかると、そのお金を「人件費」「広告」「器材」など、私が『年商1億円医院の設計図』でおすすめした投資に回す先生が現れた。
 加えて、コロナ禍では旅行や食事などの娯楽に回していたお金の流れがストップし、それが自由診療などの高額な治療やメインテナンスなど「健康分野」に回ってきた。さらに、マスク生活になったおかげで矯正の分野も非常に活発化した。つまり、歯科業界は経営面だけでいえばコロナで一時は大きなマイナスの影響を受けたものの、その後はプラスの影響のほうが大きかったのである。
 しかし、現在はその状況も一変し、歯科業界は経営面で非常に厳しい環境に置かれている。まず、コロナ禍が明け、いままで「健康分野」に回ってきたお金が「娯楽」に向かうようになってきた。しかも、コロナ禍で使えなかったぶん、余計に娯楽にお金を使いたいという人が増えているように思う。
 そして、物価高騰により財布の紐が固くなった。クライアントとの打ち合わせでも「最近、自費治療の売上が減ってきてるんだよね」という声を聞くようになってきた。いままで美容院に行く回数が3ヵ月に1回だったのが半年に1回になれば、歯科の定期検診などでもこれと同じ現象が起こってくるのは当然といえる。
 さらに、医院経営で大きな割合を占める材料代や歯科技工代、その他の固定費が物価高騰により軒並み上がってしまっている。そのため、いままでと同じ売上であっても利益は減ってしまうことになる。
 そして最後に、いま一番、歯科業界で直面している課題は、何といっても「人材の確保」である。
 われわれの事務所は、税務以外にもクライアントのいろいろな経営の相談を受けるのだが、ここ数年はクライアントの悩みの9割がこの「人材の確保」になっている。
 人件費についても、ここ数年の上昇率はいままでで経験したことのないような上昇率である。また、政府も「賃上げ推奨」として、いろいろなところで賃上げの話がされており、Yahoo!を見ると「転職」を促すエージェントのバナー広告があちこちに貼られている。
 このように人材の争奪戦が歯科業界でも始まってきたことで、医院の経営は非常に厳しいものになっている。気を抜くと「スタッフが半分になってしまった」ということも起こり得る。
 これまでは「売上こそ正義」であり、隣の歯科医院より売上を上げること、地域で最も大きな売上規模になることこそが、この業界では「勝ち組」の基準だった。
 余談だが、私はこの「勝ち組」という言葉にものすごく違和感がある。本来経営において「勝ち」も「負け」もない。目の前の患者さんによい治療を提供することで幸せになってもらい、それで院長、スタッフや家族が幸せになる、これが医療の本質であろう。しかし、現実としてこの業界では「売上」がひとつの成功のバロメーターになっていることは事実である。
 私が『年商1億円医院の設計図』を出版してからというもの、いろいろなところで『年商○円の……』というフレーズを目にすることになる。また、「スタッフ○人」「分院○院」という、規模の大きさを強調したセミナーや書籍も増えてきているように思う。もちろん、規模の拡大を目指すことが悪いことではない。しかし、これからの時代に求められるもの、それはスタッフの幸福と利益の追求である。
 そして、スタッフの幸福のためには人件費を上げていくことが重要になる。いくら人間関係がよくても、いくら福利厚生を充実させても、スタッフの給与を上げられない院長は経営者失格である。これからの歯科医院経営者として考えなければならないことは、人件費を増やしながら利益を増やすことにある。
 しかし、はたして本当にそんなことが可能なのだろうか。それに答えるべく、本書では「人件費と利益をどのようにして増やしていくのか」をテーマとして述べたい。
 そして、「売上○円」というセミナーでも、「その医院の人件費率はどうなのか」「利益はどれくらい残っているのか」ということはほとんど語られることがないし、そのようなデータもほとんどない。そのため、多くの先生が手探り状態で経営をしているのが現状であろう。そこで本書では、弊社顧客データベースをもとに、売上規模によって人件費や利益はどうなっているのか、そして、人件費を増やしながら利益を増やすためには何をしていけばよいのかなどについて、クライアントへの取材を通じてその手法をお伝えしたい。

 本書を読むことで、歯科医院の院長もそこで働くスタッフも給与が増え、そして医院にお金が残るようになることが本書のゴールである。
 平成の医院経営は「売上」の最大化を目標にすることだったが、令和の医院経営は「利益」の最大化を目標にすることである。そして、利益よりももっと大切なこと、それが先生の医院で働くスタッフの幸せを追求することである。
 それでは、人件費を増やしながら利益が増え、先生のまわりにいる人たち全員が幸せになる世界へ、私がご案内しよう。

CONTENTS



歯科専門税理士が教える 利益最大化&給与最大化の医院経営術 もくじ
著者プロフィール

山下剛史(やました たけし)

 大手税理士法人・医療系コンサルティング会社を経て、2003年に歯科専門のデンタルクリニック会計事務所を設立。2014年に税理士法人キャスダックに改組。税理士・行政書士・ファイナンシャルプランナー(CFP)。「歯科医院のキャッシュの最大化」をモットーに、医院の節税・数値分析、キャッシュフロー改善コンサルティングなど税務会計の枠を超えた幅広いサービスを展開。
 2024年現在、約48%のクライアントが年商1億円を達成している。数多くの開業も手がけ、開業して数ヵ月でレセプト300枚を達成するクライアントも多数。クライアントには開業して間もない30~40代のやる気に溢れた先生が多く、歯科医院のパワーパートナーとして関西・関東を中心に活躍している。
 おもな著書に『利益を出す経営の極意』、『キャッシュ最大化計画』『あなたの歯科医院を90日で成功させる』、『スタッフのヤル気が歯科医院を発展させる』、『歯科医院にお金を残す節税の極意』(いずれもクインテッセンス出版)、『年商1億円医院の設計図』(デンタルダイヤモンド社)がある。

歯科専門税理士が教える 利益最大化&給与最大化の医院経営術 表紙