はじめに：歯科衛生士とともに学ぶ　GPのための小児歯科ケーススタディ｜本のエッセンス

はじめに

　大阪大学歯学部附属病院小児歯科において、小児や障がいを有する患者さんの治療に従事して28年ほどになります。ここ10年は、病院における歯科衛生士に関する世話役を任され、多くのことに取り組んできました。実際には、日々の小児歯科臨床における接点だけではなく、専門学校などからの歯科衛生士免許取得前の臨床実習生、歯科衛生士免許を有する病院研修生、各診療科に配属されている歯科衛生士スタッフなど、さまざまな背景の方々と深い接点をもってきました。そして、いま改めて感じているのは、歯科医師と歯科衛生士の両者が緊密なコミュニケーション下で、患者さんに向き合うことの重要性です。
　2022年６月に『臨床医のための小児歯科 BASIC & CASEBOOK』を、同年12月に『歯科衛生士のための小児歯科のきほん』（DHstyle 増刊号）を出版しました。前者は、開業歯科医の先生方に、小児歯科学の教科書的な知識を改めて整理していただき、実際の症例への対処法と紐づけてご理解いただくことを目指しました。後者は、患者さんの最前面に立つ歯科衛生士の方々に、小児歯科領域の基礎知識を整理していただき、日々の臨床に役立ててもらうことを目標にしました。いずれも、苦手と思われることが多い小児歯科臨床をポジティブに捉えていただき、身近な歯科医院で一人でも多くの小児を診ていただける環境を整えたいという思いからでした。
　患者さんの傍らに歯科医師と歯科衛生士がいることは、日々の診療では当たり前の光景です。一方で、両者が考えていることに相違点もあることを、お互いに十分理解できているとは言い難いのではないでしょうか。そこで、歯科医師的なものの見方を歯科衛生士にご理解いただくこと、歯科衛生士的なものの見方を歯科医師側が理解することに役立つ素材を制作したいと考えました。今回の企画の根底にあるのは、歯科医師と歯科衛生士の両者が各種症例をどのように考え、どのように対処していこうと思い描くかを文字にして示し、立場の違う両者で共有できるようにしてみたいということです。
　このような経緯から、本書は「歯科医師向け」あるいは「歯科衛生士向け」ということではなく、「歯科医師と歯科衛生士の両方に向けて」制作することにしました。ただ、実際に読み進めますと、同じ歯科医師の立場でも、同じ歯科衛生士の立場でも、本書に記載の内容とは違う考え方もあり得ると感じられることと思います。そのようなときは、ぜひその症例を使って、両者で実際にディスカッションを重ねていただき、コミュニケーションを深めてみてください。このようなことを継続していくことで、歯科医師と歯科衛生士の両者が、真の「One team」として小児歯科医療に立ち向かうことができるようになると考えています。

2024年3月
仲野 和彦

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