アスピリン喘息患者への鎮痛薬の投与
小林真之
日本大学歯学部 薬理学講座
アスピリン喘息は、シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)阻害作用をもつ薬物によって生じる非アレルギー性の疾患である。その本態は、COX-1阻害作用によって、アラキドン酸からロイコトリエン類が過剰に産生され、このシスティニルロイコトリエンがメディエーターとして気管支平滑筋を収縮させることである。したがって、その名のとおりアスピリンはもちろんのこと、COX-1阻害作用のある酸性非ステロイド性抗炎症薬(酸性NSAIDs)の投与でも生じることから、誤解を招きやすいアスピリン喘息という名称は、NSAIDs-exacerbated respiratory disease(N-ERD)に置き換わりつつある。
このようなN-ERDの既往をもつ患者に対する消炎鎮痛薬は、慎重に選択する必要がある。塩基性NSAIDsであるチアラミド塩酸塩(ソランタール®)やセレコキシブ、アセトアミノフェンなどはCOX-1阻害作用が弱い、もしくはほとんどないため候補薬となるが、いずれもその添付文書には禁忌として「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎・鎮痛剤等による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者(重症喘息発作を誘発するおそれがある)」が挙げられている。それでは、歯科処置後の疼痛には、どのように対応すべきなのだろうか?
厚生労働省が取りまとめている重篤副作用疾患別対応マニュアル(令和4年2月改訂)にある非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(アスピリン喘息、解熱鎮痛薬喘息、アスピリン不耐喘息、NSAIDs過敏喘息)の章では、アセトアミノフェンとセレコキシブの投与について実際的な対応策が挙げられている。
アセトアミノフェンは従来では安全とされてきたが、米国におけるN-ERD患者への負荷試験で、1,000~1,500㎎/回で34%に呼吸機能が低下したとする報告がある1)。現在、欧米では500㎎/回が推奨されており、日本人には300㎎/回とすべきとされている。
セレコキシブはCOX-2選択的阻害薬であるため、倍量投与でもN-ERDで喘息発作が起きないことが確認されている2)。また、タスクフォースメンバーからも安全であると提言されている2,3)。なお、重症不安定な患者において喘息を誘発したとする報告もある。 以上のことから、処方に関しては主治医の責任となることを前提に、投与前の十分な説明は当然のこととして、内服させてから2時間程度は観察期間を設けるなど慎重を期す必要がある。また、喘息発作時には、たとえば次のような対応が求められ、重症化に備えて専門の医療機関に搬送する準備も必要である4)。
1.酸素投与(2L/min以上)
2.患者が携行している頓用薬(β2刺激薬)の使用
3.アドレナリン(0.2㎎×複数回)筋注または皮下注
4. リン酸エステル型ステロイドとアミノフィリンの点滴静注(例:デキサメタゾン〔デカドロン®注射液〕
1.65㎎×複数回+アミノフィリン〔アミノフィリン静注〕250㎎×複数回)
5.皮膚症状があれば、抗ロイコトリエン薬・プロスタグランジンE1製剤などを考慮
【参考文献】
1) Settipane RA, et al.: Prevalence of cross-sensitivity with acetaminophen in aspirin-sensitiveasthmatic subjects. J Allergy Clin Immuno, 96:480-485, 1995.
2) Szczeklik A, et al.: Aspirin-induced asthma: advances in pathogenesis, diagnosis, and management. J Allergy Clin Immunol, 111(5): 913-921, 2003.
3) Kowalski ML, et al.: Diagnosis and management of NSAID-Exacerbated Respiratory Disease(N-ERD)-a EAACI position paper. Allergy, 74(1): 28-39, 2019.
4) 谷口正実:喘息の亜型・特殊型・併存症――アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息).日内会誌,102(6):1426-1432,2013.
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「アスピリン喘息患者への鎮痛薬の投与」についてです。