Q&A 歯科一般 MRONJが疑われたときの対応|デンタルダイヤモンド 2025年7月号

Q&A 歯科一般 MRONJが疑われたときの対応|デンタルダイヤモンド 2025年7月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2025年7月号より「MRONJが疑われたときの対応」についてです。

当院で高齢患者の抜歯を行いました。抜歯後、痛みが持続し、抜歯窩の治癒が遅く、排膿を認めているため、MRONJが疑われます。どのように対処すればよいでしょうか。 大分県・M歯科医院

1.適切な診断のために
 抜歯後の疼痛や治癒不全としては、ドライソケットが鑑別診断に挙がります。ドライソケットは、抜歯窩に正常な血餅が形成されず、骨面の露出した状態が持続するため、激しい痛みを引き起こします。とくに、骨吸収抑制薬の投与歴がある患者において、局所的なドライソケット治療後も疼痛が改善せず、排膿や骨の露出が続く場合は、MRONJ(Medication-related osteonecrosis of the Jaw)の発症が強く疑われます。
 MRONJの診断には、患者の既往歴、注射歴、内服薬の確認が極めて重要です。たとえ「お薬手帳」に骨吸収抑制薬が記載されていなくとも、骨粗鬆症やがん(乳がん、前立腺がん、多発性骨髄腫など)の既往がある場合、また、膠原病の治療でステロイド服用中の患者には、とくに注意が必要です。
 さらに、口腔がんや咽頭がんなどにより顎骨へ放射線が照射されている場合、放射線性顎骨骨髄炎の可能性も否定できず、頭頸部の悪性腫瘍疾患の既往について確認する必要があります。
 抜歯前にはMRONJ発症リスクに関する十分なインフォームド・コンセントが重要です。また、インフォームド・コンセントを実施したからといって、MRONJが発症した際に問題が解消されるわけではありませんので、その後の適切な対応が必要になります。

しかし、実際には、抜歯前からMRONJが発症している場合もあります。図1の症例では、78における歯の動揺が顕著であったため抜歯を施行しました。抜歯の時点で抜歯窩から粗造な骨を触知しており、一時期は上皮化が得られたものの、6ヵ月後には腐骨分離がみられました。このような場合、抜歯の時点で保存不可能な歯の周囲歯槽骨は、すでにMRONJのStage0〜1に該当していた可能性が高いと考えられます。
図❶ プラリア投与歴のある92 歳、女性。78の抜歯を行った。不良肉芽を除去し、完全閉創した。2ヵ月後、
上皮化は得られていたが、6ヵ月後、排膿、腐骨分離を認めた
図❶ プラリア投与歴のある92歳、女性。78の抜歯を行った。不良肉芽を除去し、完全閉創した。2ヵ月後、上皮化は得られていたが、6ヵ月後、排膿、腐骨分離を認めた

2.早期治療に繫げよう
 近年、早期に積極的な外科的介入を行うことで、多くのMRONJ症例の治癒が可能であるとされています。最新のポジションペーパー『薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023』では、骨露出を含むすべての症状の消失、すなわち「治癒」を治療目標とすることを示しています。
 そのため、MRONJを疑った場合には、早期診断・治療へと移行するため、専門医へのコンサルト(大学病院や病院口腔外科への紹介)が必要です。
 口腔外科では、顎骨壊死の範囲を正確に評価し、最適な治療方針を検討します。手術療法、保存療法のいずれを選択した場合にも再発のリスクは避けられず、長期フォローが必須となるため、かかりつけ医と専門施設との連携が不可欠です。連携の取りやすい病院を選ぶことが望ましいでしょう。
 また、急性症状がある場合には抗菌薬や消炎鎮痛薬の投与、あるいは切開消炎手術が必要になることがあります。症状が強い場合には、可能な範囲で消炎処置を行い、その後、すみやかに専門施設への紹介を検討してください。

小林真左子
島根大学医学部 歯科口腔外科学講座


デンタルダイヤモンド 2025年7月号 表紙

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