- 最近、離婚後の共同親権が選択可能になる改正民法が成立したと聞きました。親権について、どのように変わったのでしょうか。 大分県・M歯科
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離婚後も両親が親権をもつ「共同親権」を可能とする改正民法等が、2024年5月に成立しました。成立から2年以内に施行予定です。
親権とは、父母が有する未成年の子を監護・教育したり、子の財産を管理したりする権限・義務であり、子の利益のために行使されるものです。子を監護・教育する権利・義務、住む場所を決める権利、職業を営むかどうかを決める権利、財産を管理する権利等を内容とします。
現行法では、婚姻中は父母双方が親権者であり、共同して親権を行使しますが、離婚した場合、父または母のどちらか一方が親権をもつ単独親権となっています。
しかし、欧米では共同親権が一般的といわれており、2019年には国連の子どもの権利委員会が、離婚後の共同養育を認めるための法改正を日本に求めていました。このような国際的な趨勢もあり、日本でも共同親権制度が導入されることとなりました。
改正民法では、離婚時、両親は合意により単独親権か共同親権を選択できるとされており、合意できないときには、家庭裁判所が子の利益の観点から父母双方または一方を親権者と指定します。
裁判所における判断基準は子の利益であって、父母双方を親権者とすることで子の利益を害する場合には単独親権としなければならないとされています。具体的には、子への虐待のおそれがあるケース(身体的なものに限りません)や、協議が調わない理由その他の事情を考慮して親権の共同行使が困難なケースが挙げられています。
また、父母双方が親権者の場合、親権は共同行使としつつ、一定の場合には単独でも行使可能とされています。具体的には、子の利益のため急迫の事情があるとき(DVや虐待からの避難、緊急の場合の医療等)、監護や教育に関する日常の行為(子の身の回りの世話等)が挙げられています。他方で、幼稚園や学校の選択、パスポートの取得、歯科矯正治療等は、原則どおり共同行使とされています。
このような共同親権制度ですが、反対論も根強く、いくつかの懸念も示されています。たとえば、DVや虐待が認められる場合は裁判所の判断で単独親権とされますが、実務上、DV等の存在を裏付ける証拠が十分にあるケースが多いとはいえず、その立証は容易ではありません。真実はDV等があったにもかかわらず、証拠が十分にないため、共同親権とされる可能性が指摘されています。
また、家庭裁判所の受け入れ体制の問題もあります。司法統計によると、親子の面会交流や子の監護養育をめぐる調停や審判の申立件数は、2022年時点で10年前から約1割増加し、平均審理期間も約3ヵ月延びています。離婚後の共同親権制度が導入されれば、家庭裁判所の負担はさらに増えるでしょう。充実した審理、迅速な審理が行われるための体制を整えることが求められます。
なお、共同親権下で単独行使が可能な「日常の行為」や「急迫の事情があるとき」の範囲が明確になっていないとの批判もあります。この点については、今回の改正に際し、ガイドラインでの明確化を求める付帯決議が採択されていますので、施行されるまでに一定の基準が示される予定です。ガイドラインは裁判所の判断を拘束するものではありませんが、実務上、重要な指針となります。
このように懸念がないとはいえない制度ではありますが、何より子の利益のために運用されるよう、両親をはじめ、関係機関・専門家等の適切な対応が求められます。井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年9月号より「改正民法で認められた共同親権制度」についてです。