- 海外の歯内療法専門医の間で「Ninja Access」(忍者アクセス)が話題になっていると聞きました。どのような特徴があるのか、教えてください。 千葉県・A歯科
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近年、歯根破折の予防を期待して、根管治療時の歯質の削合を最小限に抑えることが各国で検討されています。さまざまな根管洗浄の方法が開発されたことで、根管形成も可能なかぎり細いもので終えようという動きがあり、25号での形成どころか、20号や15号で形成を完了したものも報告されています。そうした低侵襲歯内療法(Minimally invasive endodontics)の潮流のなかで、ネーミングのインパクトもあり話題になったものが、ご質問の「Ninja Access」です。
低侵襲歯内療法には前述の根管形成に関する議論がありますが、活発に研究されているものの1つにアクセス窩洞形成の縮小が挙げられます。従来の根管へのアクセス窩洞はすべての根管口が咬合面から視認可能で、切削器具の負荷を抑え、トランスポーテーションを防ぐためにストレートラインアクセス(根管上部の漏斗状拡大)による根管口上部の象牙質の削合を伴う術式でした。現在の学生教育のみならず、一般臨床においても歯内療法のゴールドスタンダードというべき手法です。
それに対して「Ninja Access」に代表される低侵襲アクセス窩洞は、ラウンドバーの直径程度の小さな窩洞から根管形成を行うもの(図1)で、歯冠部の歯質を大きく保存できる可能性があるとされています。
現在までいくつかの研究でその有用性が検討されていますが、従来の窩洞では応力が歯頸部に集中するという報告が多いものの、反対の結果を示した報告もあります。破折への抵抗性に関しては、前歯においてはほとんど差はみられないようです。臼歯に関しては差はないとするものと、従来の窩洞において破折抵抗性が低下するという報告が同程度ありますが、そのほとんどが有限要素解析によるものでまだまだ議論の余地がありそうです。
一方、低侵襲アクセスでは上顎大臼歯の近心頰側第二根管の発見が困難となるとされ2)、複雑な形態をもつ歯への応用には慎重を期す必要があるといえます。根管治療において最も重要な歯髄腔や根管内の組織および細菌の除去については、臼歯において両アクセスの間に差があったとする報告はほとんどなく、前歯部においては低侵襲アクセスのほうが残存細菌が多いとする報告が一例あるのみです3)が、使用する器具や手法に大きく左右される可能性があります。
現在までの報告を踏まえると、低侵襲アクセスが歯根破折を防止し、歯を保存できる可能性を高めるという明確な科学的根拠はまだありません。また、う蝕により歯冠部歯質を喪失している症例ではあまり意味がない、CBCTやマイクロスコープ、ニッケルチタンファイルの使用が前提など、越えるべきハードルは多くありそうです。こうした手技が実現可能な未来は近そうですが、まずは基本的な原則を遵守した根管治療を実施することが大切です。
図❶ 従来のアクセス窩洞とNinja Accessの違い(参考文献1)より引用改変)【参考文献】 1)Shabbir et al.: Access Cavity Preparations: Classification and Literature Review of Traditional and Minimally Invasive Endodontic Access Cavity Designs. J Endod, 47(8):1229-1244, 2021.
2)Saygili G, Uysal B, Omar B, et al.: Evaluation of relationship between endodontic access cavity types and secondary mesiobuccal canal detection. BMC Oral Health, 18: 121, 2018.
3)Vieira GC, Perez AR, Alves FR, et al.: Impact of contracted endodontic cavities on root canal disinfection and shaping. J Endod, 46: 655–661, 2020.村野浩気
●神奈川歯科大学 歯科保存学講座 歯内療法学分野
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年9月号より「低侵襲歯内療法 「Ninja Access」って何?」についてです。