- 昨年、「プロバイダ責任制限法」が改正されて、インターネットの口コミサイト上の誹謗中傷などについて、簡便・迅速に発信情報者の開示請求ができるようになったと聞きました。どのような点が変わったのか教えてください。 ●千葉県・O歯科クリニック
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「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)」は、プロバイダ等の損害賠償責任の制限、発信者情報の開示請求等および発信者情報開示命令事件に関する裁判手続について定めた法律です。平成13年に制定された法律であり、直近では令和3年4月に改正され、令和4年10月から施行されています。
プロバイダ責任制限法が制定された当時、適用対象としては、おもに電子掲示板等のサービスが想定されていました。その後、ブログ、動画・画像共有サービス、SNS等のさまざまなサービスが登場しました。これにより、情報の発信・取得が便利になる反面、インターネット上の権利侵害投稿による被害が増加・深刻化する傾向にあります。
インターネット上の匿名の書き込みによって誹謗中傷等され、それが名誉毀損やプライバシー侵害等に該当する場合、誹謗中傷等された側の執り得る手段としては、当該書き込みの削除請求と、投稿者(発信者)に対する損害賠償請求が考えられます。
後者の損害賠償請求については、その前提として発信者の氏名・住所等を特定する必要があります。改正前の旧法下の流れは次のとおりです。まず、掲示板管理者やSNS事業者等(コンテンツプロバイダ)に対し、当該投稿に係るIPアドレスとタイムスタンプの情報の開示を請求し、任意で応じなければ裁判所に開示を命じる仮処分を申し立てます。これらの情報を取得することができた後、次は、これらの情報から判明する、当該書き込みを投稿した者が使用したプロバイダ(アクセスプロバイダ)に対し、投稿者(契約者)の氏名・住所等の情報開示を請求する訴訟を提起します。つまり、発信者の特定には2段階の裁判手続が必要であり、相当の時間・コストを要しました。
また、たとえばTwitterやGoogleのようなログイン型のサービスにおいては、投稿時のIPアドレス等が保存されておらず、ログイン時の情報のみが保存されているものがあります。そのため、発信者の特定のためにはログイン時情報を取得する必要が生じる場合がありますが、改正前はログイン時情報も発信者情報として開示請求の対象となるのかどうか条文上あきらかでなく、議論されていました。
今回の改正は、これらの問題を軽減・解消することを目的としています。おもな改正点は2つです。
1つ目として、2段階の裁判手続が必要であった点については、発信者情報の開示請求を1つの手続で行うことを可能とする新たな裁判手続が創設されました。併せて、裁判所によって開示命令がなされるまでのタイムラグに権利侵害通信に係る通信記録が消えてしまう事態を防ぎ、通信記録の保全に役立つような新たな制度(提供命令、消去禁止命令)も設けられました。
2つ目として、SNS等のログイン型サービス等において投稿時の通信記録が保存されない場合であっても、発信者の特定に必要となる場合、ログイン時情報の開示請求が可能となるような見直しがなされました。
このように、プロバイダ責任法が改正されたことによって、インターネットの口コミサイト上の誹謗中傷等について、より簡便・迅速に発信情報者の開示請求ができるようになったといえます。
なお、令和3年の法改正には、投稿の削除請求に関する内容は含まれていません。そのため、削除請求は従前どおりの手続によります。
井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年6月号より「プロバイダ責任制限法はどのように改正された?」についてです。