エナメル上皮腫にはいくつかの亜型があり、本症例はその1亜型に分類されている類腱型エナメル上皮腫(Desmoplastic Ameloblastoma:DA)である。DAは、組織学的には間質の豊富な膠原線維の増生とエナメル器に類した腫瘍細胞が増殖している。画像所見では、境界不明瞭な蜂巣状のX線透過像を特徴とする疾患である。腫瘍周囲の被膜がないため切除範囲の設定が困難であり、典型的なエナメル上皮腫と比較して再発率が高い。そのため、十分な健常組織を含めた切除と、その後の経過観察が必要であると考えられている。本疾患は、好発年齢40~50歳代で性差はない。好発部位は、上下前歯部から小臼歯部の歯槽部である。
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生検所見
局所麻酔下に生検を行ったところ、病理組織学的所見として、膠原線維に富む、瘢痕様で結合組織性の間質内に、小型の腫瘍細胞の散在を認めた。これにより、類腱型エナメル上皮腫が疑われた。
処置および経過
全身麻酔下にて、321および腫瘍上部の歯肉粘膜を含めた腫瘍切除術を、安全域を設けたうえで施行した(図❹)。術後、部分床義歯を装着した。術後2年を経過しているが、創部は正常上皮に覆われ、現在まで再発なく経過良好である(図❺)。
病理組織学的所見
充実性で、腫瘍実質には密な膠原線維からなる線維性結合組織が認められ、その中には歯原性上皮からなる小胞巣が散在性に増殖していた(図❻)。

図❹ 手術所見と摘出物


a:術後6ヵ月の口腔内写真
b:部分床義歯を装着した状態
図❺ 術後経過写真

図❻ 病理組織像(HE染色×40)
2.エナメル上皮腫