Q&A 補綴 インプラント支持の補綴装置における選択基準|デンタルダイヤモンド 2024年7月号

Q&A 補綴 インプラント支持の補綴装置における選択基準|デンタルダイヤモンド 2024年7月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年7月号より「インプラント支持の補綴装置における選択基準」についてです。

無歯顎患者へインプラント支持の補綴治療を行う際、可撤性補綴装置(インプラントオーバーデンチャー)と固定性補綴装置(ボーンアンカードブリッジ)の使い分けに迷います。選択基準を教えてください。 山形県・W歯科

 抜歯即時埋入であったり、即時荷重であったり、いわゆるオールオン4(オールオンX)の術式ではなく、抜歯窩が治癒している無歯顎の症例で、インプラント埋入に際して骨移植等を必要とせず、骨の高さと幅が確保されている症例と仮定してお答えします。
 無歯顎の症例では、すでに有床義歯(総義歯)が装着されていることがほとんどでしょう。そこで、インプラント治療を適用するにあたり、「現在、使用中の総義歯の問題点」あるいは「総義歯に対する患者の満足度」に関して正確に把握しておくことが、インプラント支持による補綴治療の方針の決定に極めて重要なポイントだと考えています。
 可撤性の有床義歯である総義歯自体に不満や違和感がある場合には、基本的に固定性の補綴装置であるボーンアンカードブリッジを第一選択として考えています。
 一方で、「可撤性の有床義歯そのものには不満を感じてないが、不安定な(外れやすい、口の中で動く)のが嫌だ! 」という場合、まずはインプラントオーバーデンチャー(IOD)を治療の選択肢として考えてもよいと思います。
 もちろん、このようなケースであっても、ボーンアンカードブリッジでの治療が否定されるわけではありません。単に費用対効果を考えるとIODがよいように思われますが、症例によっては、バーアタッチメントを用いる場合、義歯の形状が大きくなってしまい患者の不満に.がることなどに注意が必要です。
 また、過去のいくつかの臨床研究によれば、上顎においてインプラント同士を連結しないIODでは、インプラントがロストするリスクがやや大きくなるといわれていることなども知っておく必要があります。一方、前歯部の排列に関する自由度やリップサポートに関しては、IODが圧倒的に有利となる症例もありますので、術前の慎重な診察と分析が重要と考えます。

 さて、最も注意すべき症例は、患者が現状の総義歯に違和感もなく、維持・安定も含めて十分に満足しているにもかかわらず、理想的かつ最も先端的な歯科治療としてインプラントを希望している場合です。このような症例には、インプラント治療の適用は慎重に考えたほうがよいと考えます。もしも、患者が「高価な医療=高い審美性(アンチエイジング、若返り)」というイメージでインプラントを希望しているとすれば、このような症例へのインプラント治療は要注意です。
 とくに上顎の場合、可撤性の有床義歯(総義歯)からインプラント支持のボーンアンカードブリッジに変わると、唇側義歯床による前歯部のリップサポートが大きく失われるため、鼻下部が凹んで皺が増し、いわゆるほうれい線も目立って老人様顔貌になってしまうことがあります。
 症例にもよりますが、従来型の総義歯は、審美的に優れた補綴装置であり、とくに顔面の審美性の確保には極めて有効な場合があります。高額な医療費を払ってインプラント治療を受けた後で、「よく噛めるが、総入れ歯のときより顔が老けた」となると患者は納得せずトラブルになることがあります。
 咀嚼能力という観点からみた場合、総義歯はインプラントより劣るとはいえますが、リップサポート(フェイスリフトといってもよいかもしれません)という観点からみた場合、ボーンアンカードブリッジより総義歯(可撤性有床義歯)のほうがより審美的な治療となる場合があることを忘れてはいけません。
 このような場合には、ボーンアンカードブリッジからIODに治療計画を変更するオプションが考えられますが、もともと使っていた総義歯の維持・安定に患者の不満がまったくなかった場合、何のためのインプラント治療だったのか納得が得られない可能性があるので注意が必要です。

細川隆司
九州歯科大学附属病院
口腔インプラント科


デンタルダイヤモンド 2024年7月号 表紙

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