- 「既往症やアレルギーについては治療に関係があるので記入するが、住所、電話番号、家族構成は個人情報だから書きたくない」と、問診票の一部の記入を拒否する患者がたまにいます。すべての項目を必ず記載してもらうことはできないのでしょうか。また、既往歴等を記入してもらう場合、別途同意書をもらったほうがよいのでしょうか。 長崎県・M歯科クリニック
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前提として、患者には、問診票に住所、電話番号および家族構成を記入する義務はありません。そのため、記入を強制することはできず、記入拒否を理由に診療を拒否することもできないと考えられます。 もっとも、歯科医師には、カルテに「診療を受けた者の住所、氏名、性別および年齢」等を記載すべき義務があります(歯科医師法施行規則22条)。ご質問の項目のうち住所については、この法令上の規定を根拠として記入を求めることが可能です。
さらに、住所や電話番号は、緊急時等の連絡先として必要なことなどを懇切丁寧に説明し、患者の理解を得られるよう努力するのが妥当です。
家族構成についても同様に、緊急時等の連絡相手の情報として必要なこと、家族歴を考慮すべき疾病の診断の前提情報として必要なことなどを説明し、患者に理解してもらえるよう努めるのが適切です。
次に、既往歴等の記載における同意書の取得の要否についてです。患者の既往歴は「要配慮個人情報」に該当します。要配慮個人情報とは、不当な差別や偏見、その他の不利益が生じないようにその取り扱いにとくに配慮を要するものとして、政令で定める記述等が含まれる個人情報をいいます。歯科診療所において取り扱うことが想定される要配慮個人情報としては、病歴を含む情報(レセプト等に記載された情報)等が挙げられます。
要配慮個人情報の取得には、原則として本人の同意が必要です。もっとも、要配慮個人情報を書面または口頭等により本人から適正に取得する場合は、本人が自分の個人情報を提供したことをもって、当該医療機関が当該情報を取得することについて本人の同意があったものと解されます。そのため、別途同意書を取得するなど、改めて明示的な同意を得る必要はないとされています(一般社団法人日本病院会・個人情報に関する委員会「病院における個人情報保護法への対応の手引きQ&A[事例集]」)。
また、医療機関等については、患者に適切な医療サービスを提供する目的のために、当該医療機関等において、通常必要と考えられる個人情報の利用範囲を施設内への掲示(院内掲示)によりあきらかにしておき、患者側から特段明確な反対・留保の意思表示がない場合には、これらの範囲内での個人情報の利用について同意が得られているものと考えられるとされています(厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」)。
院内掲示は、個人情報の取得・利用に関する同意との関係のみならず、問診票を漏れなく記入してもらうための説明的意味も有すると考えられます。そのため、院内掲示を適切に行うことが重要です。井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年10月号より「問診票内の項目をすべて記入してもらえるか」についてです。