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歯科医師が病気を見つけるとき 8
●東海大学医学部口腔外科学教室 佐々木次郎 + 山崎浩史
左上顎歯肉のしびれ 中枢神経疾患
 4年前に経験した症例である。4年経過して症状がすっかり安定しているので、本誌に記載することができる。ただちに紹介してくださった歯科医師のおかげと感謝している。
◆◆◆ 患者さんの病歴 ◆◆◆
 29歳の女性で、大きな病気の既往はない。3月8日の朝、頭痛で目がさめた。市販の頭痛薬を服用して痛みはおさまった。3月9日の朝、目をさますと左の上顎大臼歯と眼の下にしびれを覚えた。次の日、しびれが強くなったので、かかりつけのK歯科医院を受診。そこでK先生は、三叉神経の第2枝の麻痺を確認すると、「すぐに東海大学に行きなさい。何か重い病気の前兆だといけない。私には診断できません」と言って、紹介状を記載した。
 当日、東海大学病院口腔外科を受診し、佐々木が担当となった。紹介状のとおりで、左側の三叉神経第2枝、とくに眼窩下神経のしびれが強い。29歳という若さではあるが、上顎癌を否定する必要があるので、レントゲンを撮って、上顎癌がないことをみてから、脳神経外科のS先生に診察を依頼した。患者さんを私に紹介してくださったK歯科医師と同様に、「私には診断できません」と付記した。
 脳神経外科で、CTとMRIを撮っているうちにも、神経麻痺は三叉神経の全域に広がって、脳神経外科に入院した。
◆◆◆ その後の経過 ◆◆◆
 入院後に、手足の筋力が低下して歩行が困難となったのに加えて、左眼の運動障害が発症した。これは、左側の外転神経が麻痺して、左右の視野が異なるために左眼を眼帯で被わないと物を見ることができない。つづいてめまいが強くなり、ベッド上での体位変換もできなくなった。CTとMRIから脳腫瘍は否定できた。診断は、中枢神経脱髄性疾患の多発性硬化症ということになり、薬物療法を行うことになって神経内科に転科となった。
 神経内科では副腎皮質のステロイド剤のプレドニゾロン・1日60mg(5mg錠を12錠)の投与をはじめ、めまいに対してはメリスロンを、頭痛に対してはテルネリンなどの投与が開始された。1ヵ月間の薬物療法で病変の進行は止まり、その後は次第に改善してきた。加療開始2ヵ月でめまいは改善し、プレドニゾロンの減量が始まった。眼の症状は改善していないものの、四肢の筋力低下は改善し、病院の廊下を歩行できるようになった。入院後80日では、眼の症状も改善のきざしがあり、プレドニゾロンも1日量10mgまで減量できた。
◆◆◆ 退院と社会復帰 ◆◆◆
 MRIでの病変の改善がみられたので、6月27日に退院できた。眼の症状は続いており、薬物もプレドニゾロンの1日10mgをはじめ、8剤の投与が必要であり、ただちに社会復帰ができる状態ではないものの、家族の介護で家庭生活を送ることができるようになった。
 退院後1年にして、介護なしで家庭生活が送れるようになった。
◆◆◆ この疾患について ◆◆◆
 脳神経外科のドクターに多発性脳硬化症の説明をきいた。この患者さんでは、左小脳と脳幹部にある動脈の1本が怒張して神経を圧迫したことによって発症したもので、原因はわからないという。発見と加療が遅れると植物人間になることが多いとのことである。
 今回は、神奈川県伊勢原市に開業しているK歯科医師が、異変に気づいてすみやかに大学病院に紹介してくださったことが奇跡的な回復につながった。
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