顎下のリンパの腫れ | 白血病 |
今号では、顎下のリンパの腫れが、実は急性の白血病であった例を紹介する。読者の皆さんは、白血病といえば血液検査で白血球数が5万とか10万とかに増えているので、血液検査をすればすぐにわかると思っているかもしれない。ところが、白血病を発病時期からみていると、血液検査で異常が出るまでに、2〜4週もかかる。今回の症例では、白血病と診断するのに2週間、診察日に4回を要している。
初診、1月5日。16歳、体重59kgの青年。きびきびとしている頭のよい青年で、いままでに疾病の既往はない。2日前の1月3日に突然、右の顎下が腫れて休日診療所を受診し、トミロンを投与され、東海大学病院への紹介状がわたされた。1月5日の初診時の右顎下リンパの腫れは、図1のように、うずらの卵大であり、体温37.2℃と微熱。パントモグラフでは、右下顎智歯が存在するが、口腔内の症状はまったくない(図2)。したがって、歯性感染症は否定できそうだ。佐々木先生も同じ意見のようで、「山崎君、ウイルス感染症でしょう。抗体値※1)をみるよりも、EB※2)を疑って末梢血液検査の結果が出るまでPT※3)に待ってもらいましょう」とのアドバイス。
図1 |
図2 |
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※2)EBは、エプスタイン・バールで、顎下のリンパや腺が腫れることが多い。
※3)PTは、患者さん(ペイシェント)の略で、ペイシェントは「我慢」ということばのとおり、患者さんは我慢しているということでしょう。
表1は初診日の血液検査。誌面の都合で、初診から2週間後のものも示した。初診日の血液検査は特別の異常はなく、私たちが当初に疑ったEBウイルスの感染症は、「Atypical Lympho」という異型リンパ球が0%だったので否定できそうであった(表1の矢印(1)参照)。いずれにしても、ウイルス感染症を考えて、自宅で安静にしていてくださいということで、患者さんには帰宅していただいた。
表1 末梢血検査の結果
検査項目 | 正常値 | 単 位 | 1月5日 | 1月19日 | 1月20日 | |
結 果 | 結 果 | 結 果 | ||||
1 | WBC | 4〜8 | ×103/μl | 3.9 | 6.1 | 6.6 |
2 | RBC | M 4.1〜5.3 F 3.8〜4.8 |
×106/μl | 3.84 | 3.72 | 3.64 |
3 | HGB | M 13.5〜17.5 F 11.5〜15.5 |
g/dl | 13.4 | 12.8 | 12.9 |
4 | HCT | M 40〜48 F 34〜42 |
% | 37.5 | 35.7 | 35.3 |
5 | MCV | M 84〜99 F 84〜93 |
fl | 97.7 | 96.0 | 97.0 |
6 | MCH | M 30〜38 F 27〜32 |
pg | 34.9 | 34.4 | 35.4 |
7 | MCHC | 32〜36 | % | 35.7 | 35.8 | 36.5 |
10 | 血液像 | |||||
Segment. | % | 60.4 | 10.0 | 17.0 | ||
Stab. | % | SEG+STAB | 1.0 | 1.0 | ||
Lympho. | % | 33.0 | 41.0 | 26.0 | ||
Mono. | % | 4.8 | 1.0 | 1.0 | ||
Eosino. | % | 1.0 | 3.0 | 2.0 | ||
Baso. | % | 0.8 | 0.0 | 0.0 | ||
Atypical Lympho. | % | 0.0 | 0.0 | 0.0 | ||
Plasma. | % | 0.0 | 0.0 | 0.0 | ||
Meta. | % | 0.0 | 0.0 | 0.0 | ||
Myelo. | % | 0.0 | 1.0 | 0.0 | ||
Pro. | % | 0.0 | 0.0 | 0.0 | ||
Blast. | % | 0.0 | 43.0 | 53.0 | ||
09 | 血小板数 | 14〜40 | ×104/μl | 16.4 | 21.4 | 19.4 |
↑ (1) |
↑↑ (2) |
↑↑↑ (3) |
3回目の再診は1月12日。体温は36.9℃となったが、顎下のリンパの腫れは変わらない。ここに至って、私たちは、悪性リンパ腫を考えてアイソトープのイメージをとることにした。ガリウム67を静注してのイメージが図3で、右顎下のリンパの部分のみが黒点となっていて、悪性リンパ腫を強く疑わせる所見であった。 4回目の再診は1月19日。この日の血液検査(表1の矢印(2)参照)で、Blast(骨髄芽球)が43%と出て、骨髄性白血病と決まった。この結果をみて、その日の午後7時に佐々木先生が患家に電話をして、「大至急で治療を要する病気ですから、明朝一番にお父さんも一緒に来院してください」と言っていた。さて翌日の1月20日、両親とともに来院した患者さんは、元気そうで消耗している様子もない。念のために、裸になってもらって全身をみたが、皮下の出血斑などはみられない。当院の血液内科に同道し、内科医と父親の協議で、最善の治療が受けられる居住地近くの病院にベッドを確保し、即日入院となった。この日の血液検査では、表1の矢印(3)に示すように、Blastは53%であり、骨髄性白血病に間違いないということであった。 入院後、骨髄穿取の血液検査で急性骨髄性白血病と確診され、化学療法が奏効して退院できたとの報告をもらった。 |
図3 |
白血病は血液検査で異常が出るまでには何らかの症状の発現から2週間〜1ヵ月かかる。