微熱の持続 | 肺結核 |
●平成10年9月29日「日本経済新聞」の春秋より
必要な備品は、日常の臨床で用いている程度のものでという前提で話を進める。
(1) パントモグラフのX線
(2) 血圧計
(3) 体温計
(4) 体重計
本シリーズを一緒に担当する山崎浩史を紹介する。1995年に歯科大学を卒業した4年目の臨床助手。研修医の2年間は、麻酔科、形成外科、放射線診断科、放射線治療科、そして救命救急センターで勉強させていただき、口腔外科に戻ってきた。私のように60歳にもなっていると、新しい医学知識に疎いので、毎日の臨床での山崎のアドバイスは有難い。
◆◆◆ | 症例の紹介 | ◆◆◆ |
2.5月4日、連休の中間に再診。相変わらず37.5℃(大学病院であるから、5月1日の初診日に末梢血検査をしたが、白血球の増多もなく異常所見はなかったことを付記する)。「先生、おやしらずの痛みも腫れもまったくなくなりましたが、熱がとれません。自宅で測ってみると、朝も夜も37度以上です。おやしらずが原因の熱ですから、早く抜歯してください」「賛成です。普通は熱のあるときには抜歯しないものです。あなたは理解のある人ですし、ちゃんとペニシリンも服んでいますから、思い切って抜歯しましょう」ということで、の抜歯をしたが、抜歯は簡単で肉芽を掻爬し、縫合1糸。バラシリンを継続し、ロキソニンの頓用処方。
3.5月8日再診。相変わらず37.6℃。抜歯創の治癒は良好。「先生、抜歯した日と、その翌日は、痛みどめを服んだためか、昼の間だけ熱が下がりました。それからは、また同じですし、体がだるいです」
ドラッグ フィーバーとは思えないが、紹介医を含めてバラシリンをすでに10日間服薬しているし、抜歯創に関しては感染のサインもないので休薬することにした。
4.5月15日再診。37.8℃。「抜歯してから体のだるいのが増した。食欲もない。抜いたところからバイ菌が入ったのではないか。もう少しよい薬をください」との訴え。
山崎臨床助手が「佐々木先生、ウイルス感染でもないのに熱が2週間も続くというのは普通ではありませんよ。咳が出ないといっても肺結核か何かあるのでは。無駄でもいいから呼吸器内科に診てもらいましょう」といって依頼した。そして、胸部レントゲンで肺結核を疑う所見ありとの返事をもらった。その後、気管内採痰*でPCR*陽性と判明し、秦野市にある国立療養所神奈川病院に入院した。
◆◆◆ | 歯科医の知っておきたい 医学常識・肺結核 |
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(1) 2週間以上続く咳、痰、発熱
(2) 全身倦怠感、体重減少
(3) 胸部X線での陰影
今回紹介した症例では、咳と痰がなかったが、その他は肺結核と合致していた。
痰が出ない場合には、*気管内採痰といって、細いチューブを気管に入れて痰をとる方法がある。結核菌DNAの*PCRを用いると3日間で培養検査の結果がわかる。しかし、このPCRではfalse positiveといって、偽の陽性もあるので、これだけでは確定診断とはならない。読者の皆さんが国家試験のときに暗記した「小川培地」による菌証明が日本ではいまでも確定診断に用いられている。「小川培地」に痰を植えてから4週間後に判定し、菌が生えていなければ8週間後まで観察するので、診断までに4〜8週間もかかる。臨床症状と胸部X線およびPCRを利用すれば、入院期間がずっと短くなる。
ガフキー号数というものも知っていただきたい。排菌の量をガフキー1〜10号で示すもので、10号はめちゃくちゃに排菌量が多く、1号はちょっとということである。排菌がなくなると、ガフキー0号という医師もいる。
アメリカ合衆国では、MAC(マック)といって鳥型結核菌による結核が多発して問題になっている。ハトのふんからも感染するという。幸いにも日本ではまだ、ほとんど発症していない。