歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

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歯科医師が病気を見つけるとき 1
●東海大学医学部口腔外科学教室 佐々木次郎 + 山崎浩史
微熱の持続 肺結核

●平成10年9月29日「日本経済新聞」の春秋より
 このシリーズは、開業の歯科医師が日常の診療から重要な疾患をみつけることを主眼とした。これは、患者さんを一目診てわかるものもあるが、2回、3回と診ているうちに、「眼力」のある歯科医師であれば、これはもしかするとという疑問をもつことがある。平素から眼力を養っておくことの大切さは、最近刊行されたデンタルダイヤモンド社の『歯科におけるくすりの使い方 1999――2002』のなかに詳しく記したが、今回のシリーズが、読者の皆さんの眼力向上の補いになればと願っている。
 必要な備品は、日常の臨床で用いている程度のものでという前提で話を進める。

(1) パントモグラフのX線
(2) 血圧計
(3) 体温計
(4) 体重計

 本シリーズを一緒に担当する山崎浩史を紹介する。1995年に歯科大学を卒業した4年目の臨床助手。研修医の2年間は、麻酔科、形成外科、放射線診断科、放射線治療科、そして救命救急センターで勉強させていただき、口腔外科に戻ってきた。私のように60歳にもなっていると、新しい医学知識に疎いので、毎日の臨床での山崎のアドバイスは有難い。
◆◆◆ 症例の紹介 ◆◆◆
 1.5月1日初診。の抜歯のために紹介された77歳の男性。生来、元気で大きな病気はしたことがない。血圧が高いので、近くの内科から降圧剤をいただいて服用しているとのこと。口腔所見では部に歯肉膿瘍があり、すでに自潰しており、紹介医が投与したバラシリンのおかげで、少しあった開口障害は改善したという。連休前から微熱が続き、智歯の症状が軽くなったのに、微熱と全身倦怠感がとれないという。77歳にもなって、ほとんど全部が自分の歯というだけあって、応答はしっかりしている。初診日の体温は37.5℃。パントモグラフではの歯根周囲の骨吸収がある。「紹介の先生の処方したペニシリンはよいものですし、おやしらずの炎症に効いているようですから、同じものをもう少し服用してもらって、熱が下がったら抜歯しましょう」と説明し、バラシリン1日750mgで処方追加した。

 2.5月4日、連休の中間に再診。相変わらず37.5℃(大学病院であるから、5月1日の初診日に末梢血検査をしたが、白血球の増多もなく異常所見はなかったことを付記する)。「先生、おやしらずの痛みも腫れもまったくなくなりましたが、熱がとれません。自宅で測ってみると、朝も夜も37度以上です。おやしらずが原因の熱ですから、早く抜歯してください」「賛成です。普通は熱のあるときには抜歯しないものです。あなたは理解のある人ですし、ちゃんとペニシリンも服んでいますから、思い切って抜歯しましょう」ということで、の抜歯をしたが、抜歯は簡単で肉芽を掻爬し、縫合1糸。バラシリンを継続し、ロキソニンの頓用処方。

 3.5月8日再診。相変わらず37.6℃。抜歯創の治癒は良好。「先生、抜歯した日と、その翌日は、痛みどめを服んだためか、昼の間だけ熱が下がりました。それからは、また同じですし、体がだるいです」
 ドラッグ フィーバーとは思えないが、紹介医を含めてバラシリンをすでに10日間服薬しているし、抜歯創に関しては感染のサインもないので休薬することにした。

 4.5月15日再診。37.8℃。「抜歯してから体のだるいのが増した。食欲もない。抜いたところからバイ菌が入ったのではないか。もう少しよい薬をください」との訴え。
 山崎臨床助手が「佐々木先生、ウイルス感染でもないのに熱が2週間も続くというのは普通ではありませんよ。咳が出ないといっても肺結核か何かあるのでは。無駄でもいいから呼吸器内科に診てもらいましょう」といって依頼した。そして、胸部レントゲンで肺結核を疑う所見ありとの返事をもらった。その後、気管内採痰*でPCR*陽性と判明し、秦野市にある国立療養所神奈川病院に入院した。
◆◆◆ 歯科医の知っておきたい
医学常識・肺結核
◆◆◆
 日経新聞の引用にもあるとおり、結核が復活してきた。また、病院内の医師やナースの集団感染の記事をみる。診断のポイントは、

(1) 2週間以上続く咳、痰、発熱
(2) 全身倦怠感、体重減少
(3) 胸部X線での陰影

 今回紹介した症例では、咳と痰がなかったが、その他は肺結核と合致していた。
 痰が出ない場合には、*気管内採痰といって、細いチューブを気管に入れて痰をとる方法がある。結核菌DNAの*PCRを用いると3日間で培養検査の結果がわかる。しかし、このPCRではfalse positiveといって、偽の陽性もあるので、これだけでは確定診断とはならない。読者の皆さんが国家試験のときに暗記した「小川培地」による菌証明が日本ではいまでも確定診断に用いられている。「小川培地」に痰を植えてから4週間後に判定し、菌が生えていなければ8週間後まで観察するので、診断までに4〜8週間もかかる。臨床症状と胸部X線およびPCRを利用すれば、入院期間がずっと短くなる。

 ガフキー号数というものも知っていただきたい。排菌の量をガフキー1〜10号で示すもので、10号はめちゃくちゃに排菌量が多く、1号はちょっとということである。排菌がなくなると、ガフキー0号という医師もいる。

 アメリカ合衆国では、MAC(マック)といって鳥型結核菌による結核が多発して問題になっている。ハトのふんからも感染するという。幸いにも日本ではまだ、ほとんど発症していない。
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