キシロカインCt® | アナフィラキシー |
◆◆◆ | DLSTとは? | ◆◆◆ |
現在のところ局所麻酔剤でもっともよく効くのはエピネフリン入りのキシロカインCt®なので、キシロカインCt®のアレルギー・テストを試みなければならない。しかし、過去にアナフィラキシー・ショックを発症した患者さんに、皮内テストという生体チャレンジを行うのは危険すぎるので、私は体外テストのDLSTを選んだ。
DLST:D(drug)とL(リンパ球)とのS(stimulation 刺激)T(テスト)。患者さんから採血した血液中のリンパ球に薬剤を加えて試験管内で培養し、リンパ球に幼若化がみられるとアレルギーがあると判定できる。体外テストなので患者さんにはまったく危険がない。しかし、DLSTが陽性であればアレルギーがあると判定できるが、陰性であってもアレルギーがないとは断定できない。さらに、このテストは1薬剤ごとに試験料が自費で8,000円かかり、健康保険ではできない。多種の薬剤について試験を行いたいが、信頼性と費用のことを考え、試験には1薬剤を選び、患者さんに勧めている。この検査は限られた臨床検査施設が行っていて、東海大学病院ではSRL(株)に依頼している。結果は8〜14日後になる。 |
受け取った報告書はDLST陰性であった。
6月22日に再診。生体チャレンジ・テストを行うことにした。モニターをつけて右前腕にキシロカインCt®を皮内に0.05ml注入。5分ほどすると咳とクシャミが出た。「咳とかクシャミをすることがありますか」という私の問いに、「よくします」との返事。しかし、咳とクシャミが頻発してきた。次第に皮内テストは腫れあがり(図 1 )、上腕にも赤い小さい斑点が次々に出現した。アナフィラキシー・ショックの前駆症状である。眼の周りに浮腫が出た。 | 図1 キシロカインCt® 皮内反応陽性 |
金子明寛先生が静脈路を確保してソルコーテフ®を500mg入れた(図 2 。もっとも浮腫が強いときは写真をとる余裕はないので、あとで撮影)。次第に改善してきた。同じ日に、シタネスト・オクタプレシン®の皮内テストを施行したが、反応は陰性であった。8月22日に、抜歯の予定で短日数の入院。翌23日、この機会に智歯3本を局所麻酔で抜歯することになった。 | 図2 キシロカインCt® による眼の浮腫 |
◆◆◆ | 施術状況 | ◆◆◆ |
8月の初めに佐々木先生から電話があり、8月23日にキシロカイン・アレルギー患者の抜歯をするので、予定を繰り合わせてきてくれませんかとのこと。私は以前は麻酔科に勤務していて、日本歯科麻酔学会の認定医である。
局所麻酔剤によるアナフィラキシーのもっとも怖いことは、喉頭浮腫が出現すると気道が圧迫され、呼吸ができなくなって窒息死することである。早期に発見しないと、麻酔医でも気管内挿管は困難となる。そのために私に声がかかった。1週間前に大学に行き、麻酔器の点検などを行った。
当日、佐々木先生は私に、「今日はシタネスト・オクタプレシン®の局麻でいきます。斎藤先生の出番がないのを願っていますよ」と話し、私がモニター類をつけたところで、少量のシタネスト・オクタプレシン®を下顎に注入。「10分経ちましたが、患者さんの状況とモニターにはなにごともありません」と報告すると、智歯3本の抜歯に必要な局所麻酔が追加され、あとは淡々と抜歯が行われ、なにごともなく終了した。私も一緒に喜んだ。あとで病棟に行ったが、シタネストでの抜歯なので痛いということ以外は平静であった。病棟の川村 亨主任から、この病院はよい病院ですね、と褒められた。私の出番はなかったが、それでよかったと思う。今後、この患者さんは、シタネスト・オクタプレシン®による局所麻酔で治療ができる。
病院に勤務していると1年に1〜2人の局所麻酔剤アレルギーの患者さんが来院するが、普通は全身麻酔で抜歯を行う。そうすると、その患者さんはその後の人生で局所麻酔剤の恩恵に浴することができない。
メモ:アレルゲンはキシロカイン®なのか、エピネフリンなのか、あるいは添加物の防腐剤なのかの鑑別はできない。シタネスト・オクタプレシン®にも同様の防腐剤が添加されているので、おそらくキシロカイン®によるものと推定している。 |