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歯科医師が病気を見つけるとき 13
●東海大学医学部口腔外科学教室 佐々木次郎 + ●神奈川県・開業 山崎浩史
脈が遅い 心臓のペースメーカーへ
 神奈川県伊勢原市で歯科医院を開業している大塚です。
 当院を受診した患者さんは、図1の診療情報提供書のとおりで、63歳、自営業の男性。主訴は7perと8埋伏歯に起因したらしい右顎下リンパの違和感。歯肉の炎症は抗菌薬の投与で緩解し、リンパ節の違和感も消失した。パントモグラフをみると、とも要抜去であった。自院で抜歯しようと思ったが、右の手首で脈を触れるといかにも遅い。左の手首でも脈をみたが、同じように遅い。他科での加療や投薬はない。2年前に左胸痛があったので近くの内科を受診して検査を受けたが、たいしたことはないといわれ、その後は胸痛もなく普通に生活しているとのこと。
 自院にパルスオキシメーターがあるので、プローブを指につけてみたところ、脈拍は41〜51回と遅く、サチュレーションは99%と正常であった。血圧は120/80mmHgくらいで、高血圧はない。その後2回、来院のたびに脈拍を測定したが、40〜60回と遅い。
 東海大学病院口腔外科の山崎臨床助手に相談したところ、「心循環器内科に依頼したほうがよいでしょう」という助言をいただいた。図1に示すとおりの診療依頼をした。
◆◆◆ 心循環器内科からの返事とその後 ◆◆◆
 洞性徐脈というもので、いますぐどうということはないが、脈拍が1分間に40回になるのは、今後のために心臓ペースメーカーを植え込んだほうがよいでしょう。それについては、入院して精査するので、入院中に抜歯してはいかがかという返事であった。
 私としては、ペースメーカーを入れてもらってから安心して抜歯をしたいと思ったが、内科主治医は、徐脈に伴う不整脈がないので緊急性がないこと、ペースメーカーは高額なので、精査したうえで患者さんの承諾をもらう必要があり、3ヵ月も先になるとの意見であった。
 検査のための入院中に、循環器内科の管理のもとに筆者(大塚)が東海大学病院に行っての抜歯をした。抜歯中の脈拍数も42〜50回であったが、内科医がついていてくださったうえ、何事もなく終わった。
 徐脈に対しては、硫酸アトロピンの皮下注で対応する程度の知識はあるものの、かつ自院の救急セットにあるものの、実際に使用したことはなく、私にとって貴重な経験となった。患者さんは抜歯と検査後に退院し、ペースメーカーを入れるかどうかを相談中であるとのことである。
図1診療情報提供書
◆◆◆ 佐々木からのコメント ◆◆◆
 この症例は、大塚が患者さんの脈を触診したことがポイントである。病気持ちの患者さんに対応する場合、注意が必要ではあるが、この症例のように、本人はたいした自覚がなくても、疾病があることに留意していただきたい。
◆◆◆ 大塚からのコメント ◆◆◆
 きちんと健診を受けている人はいいのですが、開業歯科医師としては、自営業の方と主婦には注意すべきと思います。ペースメーカーというのは、私が考えていたよりも高価で、驚きました。何百万円もするのだということを知りました。
◆◆◆ デマンド型のペースメーカー ◆◆◆
 ペースメーカーのなかには、デマンド型といって、半分は体内に埋め込み、他の半分をハンドバッグに入れておいて、本人が必要と感じたときにバッグから出して作動させるタイプのものがある。
◆◆◆ 歯科でのマイクロモーターと
電気メス
◆◆◆
 ペースメーカーは、携帯電話や商店の万引防止装置でも誤作動して倒れたり死んだりすることがある、と新聞に報じられている(図2)。歯科で用いるハンドピース(マイクロモーター)や超音波スケーラーは、その危険はいっそう高いと予想されるが、ペースメーカー装着者には、これらのものは用いないという歯科医師の意識が徹底しているようで、事故の報告をきいたことがない。
図2心臓のペースメーカーが盗難防止門で誤作動と伝える新聞記事
(1998年11月13日付「朝日新聞」)
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