歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
徹底追求 どっちがどっち?
パルスオキシメーター VS 心電図
岩手クリニック水沢病院
水間謙三

追求1比べてみよう、どっちがどっち?

歯科医療に医療機器モニターが使用され、医療範囲が拡大している。モニターの語源は、「警告する」意味で、生体情報を連続的にモニタリングし、異常を早期に感知し、歯科医師に警告するモニターの存在は心強い。
重症患者に必須なモニタリング項目は以下である。
呼吸系: 1. 呼吸数および換気量、2. 経皮ガス(動脈血中の酸素、二酸化炭素)モニター、3. パルスオキシメーター、4. 呼気炭素ガスモニター
循環系: 1. 心電図、2. 動脈圧モニタリング、3. 肺動脈圧モニタリング
代謝系: 体温

追求2どっちにしても、どんなもの?

1.パルスオキシメーターと心電図が用いられる背景
ヒトは生後間もなく成人の血液循環となり、体循環系と肺循環系に分けられる。体循環系の血液は左心室→大動脈→小動脈→全身の毛細血管→小静脈→大静脈→右心房の順に流れ、その後は肺循環系に入り、右心室→肺動脈→肺の毛細血管→肺静脈→左心房の順で流れる。そして再び血液は体循環系に入り、約50秒で全身を一循する。血液の流れはすべて心臓のポンプ作用に委ねられる。動脈系では左心室の厚い筋肉が全身に酸素化された血液を押し出し、静脈系では右心室が左心室の駆出した血液と同量の低酸素血液を吸い上げ、肺循環に押し出す。肺循環系に入った血液は、毛細血管の内皮細胞が呼吸細気管支に付着する肺胞(上皮)細胞の基底膜と接しているため、肺胞中に二酸化炭素を出し、酸素を受け取る。それ故に呼吸循環系の合併症を持つ有病者では、肺での酸素化状態を見るパルスオキシメーターと心臓の電気的動きを見る心電図をモニターすることは大切である。

2.パルスオキシメーター(図1)
1)表示するもの:無侵襲にリアルタイムに連続測定する。動脈血のヘモグロビンの何%が酸素と結合(酸素飽和度:SpO2)しているかと心拍数を数値で表わし、そのほか動脈の拍動による脈波曲線を表わす機種もある。
2)構造:指先や耳鼻などの組織を挟むプローブと本体よりなる。プローブは発光部と受光部があり、データを本体に送り、本体はSpO2を算出し表示する。
3)正常値:90〜100%である。90%未満であれば、酸素投与をはじめとする救命処置が必要となる。
4)測定原理:ヘモグロビンの光の吸収スペクトルを利用した分光学的酸素飽和度測定と、指などの測定部位を透過した光の強さが動脈の拍動(脈波)により波形として得られる指尖容積脈波測定法を組み合わせたものである。
図1 パルスオキシメーターとプローブの手指への装着
3.心電図
1)臨床的意義
循環器疾患の最初の検査として不可欠である。しかし、心臓病の診断は心電図だけでできないため、1. 病歴、2. 身体的所見、3. 心電図、4. レントゲン検査、5. 特殊検査(超音波検査法、心音図、心臓カテーテル法、冠動脈撮影法、心臓核医学的診断法)などで決定される。
2)心電図の波形(図2)と記録
心臓全体の電気的現象の解析でP、Q、R、S、T、Uの波がある。縦軸が心筋の興奮過程における電位差(起電力の強さ)を表わす。心電図の波形が基線(電位的に0の基準線)より上向きならば正電位、下向きならば負電位となる。心電図の最後に10mmの高さが1mVを表わす較正曲線を入れる。横軸は25mm/秒の紙送り速度で記録されるため、RR間隔を測定し比例計算すれば心拍数が得られる。
3)波の名前(図2)とそれが表わすもの
P波は最初の上向き(基線に対して正電位)の小さな波で心房の興奮過程(脱分極)を、Q波はR波の直前に下向きに落ち込んでいる(基線に対して負電位)部分で心室中隔の興奮過程を、R波は最大の起電力を示す心室筋の興奮過程を、S波はR波の終わりに下向きに落ち込んでいる部分で、電極の位置とは反対側の心室筋の興奮過程を、T波は心室の再分極(心室の興奮過程が終了し、次の興奮過程に入るための電気的回復過程)である。U波は常時出現しないが、プルキンエ線維のゆるやかな再分極と考えられているものの、明らかでない。

図2 心電図の波形の名称
4)臨床診断に用いられる心電図(図3
四肢誘導のI、II、III、aV、aV、aV誘導と胸部誘導のV〜Vの12誘導が標準で、四肢誘導は前頭面より胸部誘導は横断面より心臓の電気的活動を検討する。
(1) 又極誘導:次の2点間の電位差を記録する。
I誘導: 左右腕(肩)間(左が陽極、右が陰極)
II誘導: 右腕(肩)と左足(下腹部)間(左足が陽極、右腕が陰極)
III誘導: 左腕(肩)と左足(下腹部)間(左足が陽極、左腕が陰極)
(2)単極誘導:電極を左右両腕(肩)と左足に置き、測定部のみを陽極とし、他はまとめて結合し陰極にする。
aV誘導:右腕を陽極、その他は結合し陰極にする。
aV誘導:左腕を陽極、その他は結合し陰極にする。
aV誘導:左足を陽極、その他は結合し陰極にする。
胸部誘導:陽極の位置は、Vは第4肋間で胸骨右縁、Vは第4肋間で胸骨左縁、VはVとVの中間点、Vは第5肋間で鎖骨中線上、VはVと同じ高さで前腋窩線上、VはVと同じ高さで中腋窩線上に置く。左右両腕(肩)と左足はまとめて結合し、陰極にする。
実際の歯科治療中は、両手と左足(左腹部)に電極を置き、II誘導でモニターするのが負担が少ない(図4)。
図3 12誘導心電図と胸部誘導の電極(陽極)の位置(医科生理学展望、12版、丸善、東京より転載)
(3) 正常値
1.時間的正常値(通常は第II誘導)
PQ間隔:0.12〜0.2秒、QRS群:0.06〜0.1秒、QT間隔:0.32〜0.4秒、
2.形状についての正常値
P波:0.09〜0.11秒、高さ2.5mm以下、QRS群:高さ35mm以下、ST波:運動負荷試験で1〜2mm以内の変化、T波:QRS群が上向きの誘導では上向きを示す(種々の不整脈については是非専門書を参照いただきたい)。  
図4 歯科治療における心電図モニター使用時の電極の位置(II誘導)

追求3どこが、どれだけ、どう違う?

1.パルスオキシメーターが有用な疾患
1)肺胞低換気のある疾患
喘息、肺気腫、慢性気管支炎、肺線維症、脊椎弯曲症、肥満、腹水、重症筋無力症、ポリオ、脳脊髄外傷、筋萎縮性側索硬化症、脳梗塞など。
2)換気血流比不均等分布のある疾患
喘息、肺気腫、慢性気管支炎、肺炎、肺梗塞、心不全、長期臥床者(背側の無気肺)など。
3)拡散障害のある疾患
特発性間質性肺炎、膠原病、肺高血圧症、肺水腫、心不全、尿毒症、肺血管の血栓・塞栓など。
4)動静脈血混合のある疾患
肺炎、肝硬変、肺動静脈瘻、先天性心疾患など。
5)静脈血酸素含量の低下
発熱、全身痙攣、甲状腺機能亢進、貧血など。
2.心電図が診断に有用な疾患
(1)不整脈(異常調律)、(2)左右の心房、心室の肥大、(3)心筋梗塞および虚血性心疾患、(4)慢性肺性疾患、(5)甲状腺機能亢進症および低下症、(6)心膜炎、(7)心筋障害(代謝性疾患や電解質障害)、(8)先天性心臓病、(9)薬剤の心臓に及ぼす影響、(10)心臓病を総合診断するとき。
3.測定時の注意点
1)パルスオキシメーター
(1)酸素飽和度(SpO)の表示がでないとき:極度の低血圧や末梢の血流低下、(2)酸素飽和度(SpO)の表示が低くでるとき:低換気、低血圧、末梢血流低下、心不全、マニキュア、一酸化炭素ヘモグロビンやメトヘモグロビンの増加、貧血など、(3)酸素飽和度(SpO)が高くでるとき:測定部の冷却(25℃で2%上昇)。
2)心電図
(1)緊張や寒さのための震えによる筋電図の出現。
(2)心電計の電源スイッチを入れる前に機械がアースされていることを確認(ガス管には絶対しない)。記録後は電源スイッチを切った後にアースをはずす。
3.市販されている機種と価格
1)パルスオキシメーター
(1)酸素飽和度と心拍数のみを表示するもの:プローブと本体が合体した総重量60g(定価10万円、小池メディカル社)、(2)(1)に加えて画面上に動脈波がでるもの:ハンディタイプの重量220g(フクダ電子社)と、卓上タイプの重量6kgまでの多機種がある。定価は22〜100万円、(3)自動血圧計とセットのもの:重量3.5kg、プリンター付き(定価70万円、パラマ・テック社)。

2)心電図モニター
(1)心電図とプリンター付きのもの:重量11kg(定価140万円、NECメディカルシステムズ社)、(2)持ち運び可能で、呼吸数、酸素飽和度も測定できるもの:重量5kg、プリンター付(定価195万円、フクダ電子社)、(3)測定項目が選べるもの:重量11kg、プリンター付き(定価は心拍数、血圧、呼吸数、酸素飽和度、体温の測定項目により異なり170万円超、日本光電社)、(4)心電図モニター付き除細動器:重量13kg(定価150万円、NECメディカルシステムズ社)。

追求4比べてみたら、どっちがどっち?
図5は2症例(AB)の心電図(第II誘導)とパルスオキシメーターの脈波である。2症例ともSpOは正常だが、Aは第2、3心拍目に連続の不整脈(期外収縮)が見られ、パルスオキシメーターのプローブを装着した手指先では、約0.4秒後に期外収縮による脈波が見られた。Bは虚血性心疾患(狭心症)がある。心電図は規則正しい波形が続いているが、ST波が3mm低下している。またパルスオキシメーターの脈波形はAと異なり、動脈硬化症特有の単脈波である。図6は腹部大動脈瘤破裂症例の心肺蘇生時の心電図(第II誘導)とパルスオキシメーターの脈波である。AではRR間隔が不整で、P波がなく、QRS幅が0.12秒と図5の症例に比べ幅広く、ST波が低下し、血圧は測定できず、手指先のプローブでも脈波を感知しないためSpOは測定できなかった。しかし、Bの心マッサージ中はパルスオキシメーターに脈波曲線が出現し、SpOが99%を示したため肺での酸素化は十分だが、図5症例に比べ脈波の高さが低く、腹腔内への出血で循環血液量減少による手指先などの末梢の血流低下が推測された。
のようにモニターには適用分野と限界があるため、一つのモニターのみでの全身評価は正確性を欠く。まず患者の所見を詳しく分析し、的確なモニターを組み合わせて使用することで患者の全身状態を正確に把握できる。 ※ご校閲いただきました岩手医科大学医学部麻酔科・涌澤玲児教授に感謝いたします。
図5 期外収縮症例と狭心症症例の心電図とパルスオキシメーターの脈波

図6 心肺蘇生時の心電図とパルスオキシメーターの脈波
【参考文献】
1) 勝屋弘忠:モニター(麻酔科学書)、354〜358、克誠堂、東京、1991.
2) 駒田格知、今西嘉男:人体の脈管系(やさしい解剖生理学)、65〜108、金芳堂、京都、1992.
3) 諏訪邦夫:パルスオキシメーター、中外医学社、東京、1992.
4) 安田寿一:循環器疾患(必修内科学)、221〜340、南江堂、東京、1991.
5) 高階經和:心電図を学ぶ人のために、医学書院、東京、1995.
※過去に制作したものなので、掲載内容が現在と異なる場合があります。
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