歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

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徹底追求 どっちがどっち?
◆歯頸部欠損修復
CR修復材 VS GIC系修復材
虎ノ門病院歯科
山田 敏元
追求1比べてみよう、どっちがどっち?
最近、歯頸部欠損の修復に数種の修復材料が用いられており、臨床の現場においていささか混乱が生じている。日本においてはおもに接着性のレジン修復が行われ、ヨーロッパでは光硬化型のグラスアイオノマーセメント(グラスポリアルケノエートセメント)や“ダイラクト”のようなグラスアイオノマーレジン(コンポマー)修復が、米国においてはそれらのいずれもが多用されている。そこで、今回は歯頸部欠損の成形修復材料に限定してレジン、グラスアイオノマー、コンポマーを取り上げ、“どっちがどっち”と比較しながら、それぞれの特徴を種々の角度から検討してみよう。
追求2どっちにしても、どんなもの?
接着性コンポジットレジンは、日本のクラレ社によって開発市販された“クリアフィルボンディングシステム―F”が臨床的に初めて成功を収めた材料であり、初期のものは、ボンディング材もコンポジットレジンも化学硬化型であり、歯頸部欠損の修復に用いた場合には修復物の脱落や、歯髄症状、コンポジットレジンの変色など、決して満足のいくものではなかった。しかしながら、その後の開発改良によりボンディングシステムは、歯質に対する破壊の強いリン酸をやめ、よりマイルドなセルフエッチングプライマーを歯面処理材として採用し、光硬化型あるいはデュアル硬化型のボンディング材を用いることにより、またコンポジットレジンには、より重合率の高い光硬化型を用いることによりきわめて臨床経過の向上した修復を行うことが可能となり、歯質に対する接着強さも20MPa(約200kgf/cm2)を超えるまでになっている。現在、同様なコンセプトに基づいたレジンボンディング材が3種(クリアフィルライナーボンドII:クラレ社、インパーバフルオロボンド:松風社、トクソーマックボンドII:トクヤマ社)市販され、臨床に広く用いられている(図1)。コンポジットレジンは変色や表面劣化の少ない比較的軟らかいガラスフィラーを用いた高密度充填型の光硬化型レジンが開発市販され、審美的修復を可能にしている。
グラスアイオノマーセメントについては、すでに昨年の本誌2月号において岡山大学歯学部の入江先生によって詳しく報告されているように、約20年前英国のウィルソンとケントによって開発され、その後臨床的には日本のGC社のフジアイオノマーセメントのシリーズが成功を収めていた(図2)。しかしながら、歯質に対する接着強さが低く、硬化時に湿気に弱く(感水)、仕上げ研磨が修復直後に行えないなど臨床操作上問題が多かった。そこでこのグラスアイオノマーセメントにレジン成分を配合し、光硬化型にした修復用セメントが日本のGC社(フジアイオノマータイプIILC)より初めて開発市販された。この光硬化型グラスアイオノマーセメントは、英国ではレジンモディファイドグラスアイオノマーセメントと、米国ではハイブリッドグラスアイオノマーセメントと呼ばれ、積極的に歯面処理を行うと接着強さは約15MPa(約150kgf/cm2)にまで向上する。硬化時に感水もほとんどなく、仕上げ研磨も修復直後に行うことができ、ビタシェードの採用により、より審美的修復が可能となった。初期硬化はレジン系の硬化反応によってもたらされるものの、アイオノマーセメント本来の酸塩基反応も同時に進行し、比較的長期にわたって反応が進む。臨床操作性は従来のものに比べて飛躍的に向上したが、吸水率が若干高く、修復後若干の変色が起きやすいなどの欠点を有するものの、従来グラスアイオノマーセメントの持っていたフッ素徐放性などの利点は維持されている(図3〜5)。
次いで数年前よりドイツにおいて、この光硬化型グラスアイオノマーセメントのレジン成分をさらに増し、硬化反応のほとんどをレジンに求めた製品が開発市販された。これがデンツプライ社の“ダイラクト”という製品であり、同社により新しいコンポマーという名称が与えられ、この種の修復材の代名詞となりつつある(図6)。接着システムは歯面処理とボンディングを一体化したプライムアンドボンドといわれるものであるが、操作はワンステップで簡便であるものの、接着強さ自体はそれほど高いものではなくせいぜい約5〜6MPaにすぎない。しかしながら、レジン成分が大半を占め硬化機構がよりレジン化したことにより、修復後の変色は低いようであり、仕上げ研磨もより容易である。ところがグラスアイオノマーセメントとしての性質は小さくなり、硬化反応に占める酸塩基反応は修復後に口腔内の水分供給によりわずかに起こるといわれている。
図1 代表的なレジンボンディングシステム“クリアフィルライナーボンドII”
図2 代表的な修復用グラスアイオノマーセメント“フジアイオノマータイプII”
図3 光硬化型修復用グラスアイオノマーセメント“フジアイオノマータイプIILC”
図4 光硬化型修復用グラスアイオノマーセメント“3Mビトレマー”
図5 カプセルタイプ光硬化型修復用グラスアイオノマーセメント“フジIILCカプセル”
図6 グラスアイオノマーレジン修復材(コンポマー)“ダイラクト”
この種の製品の欠点は、いま述べたグラスアイオノマーセメントとしての反応が製品開封後に空気中の水分を吸収することによって起こってしまい、硬化が徐々に進行し、ペーストがボソボソになってしまう。そのため防湿を完全にしたパッキングが必要で、一単位の包装が使い捨てとなり、結果的に価格が高くなる。また3M社の製品では、同社のレジンボンディングシステムをそのままコンポマーの接着システムとして転用するようであり、接着強さは大きくなるものの、若干のいい加減さは否めない。言い換えれば、コンポマーは棚期間の短いコンポジットレジンといえよう。
追求3どこが、どれだけ、どう違う?
1)歯質に対する接着強さ
 セルフエッチングレジンボンディングシステムの歯質に対する接着強さは、牛歯を用いた場合、約20MPaであり、従来のグラスアイオノマーセメントでは約10MPa以下、光硬化型グラスアイオノマーセメントでは15MPa(いずれも適切な歯面処理を施した場合、たとえばGC社のデンチンコンディショナー、あるいはキャビティコンディショナーを用いた場合)。コンポマーでは、専用の接着システムを用いた場合は従来のグラスアイオノマーセメントと同様に10MPa以下のようである。
2)臨床操作性
 修復前の接着操作についてはほとんど差はない。充填操作については、光硬化型グラスアイオノマーセメントのみ練和を要する。仕上げ研磨操作は従来のグラスアイオノマーセメントを除いて、修復直後に行うことができ、ほとんど差は認められない。ただし、コンポマーのみ以前からレジン充填に際して用いられていたカンピュール用のシリンジを必要とする。最近、日本の三金社により開発市販されているコンポマーの“クシーノ”はダイレクトアプリケーションシリンジを採用しているため、この種のシリンジを必要とせず便利である(図7〜9)。
図7 グラスアイオノマーレジン修復材(コンポマー)“クシーノ”
図8 の歯頸部欠損の修復例(術前)
図9 の歯頸部欠損をクシーノ(A4)を用いて修復した術後
3)適応症
 いずれの材料も基本的には歯頸部欠損に対して応用可能である。強いて違いを求めるとすれば、歯頸部欠損の違いから考えてみよう。米国においてはこの歯頸部欠損を大きくサービカルアブレイジョンとエロージョンの2種類に分類している。欠損部表面が硬くツルツルした感があり、一見ウ蝕の認められないものがアブレイジョンであり、欠損部表面が柔らかくジメジメしており、ウ蝕の認められるものがエロージョンである。前者には、二次ウ蝕の危険性が低いものと考えられるため、接着性レジン修復が薦められ、後者には、二次ウ蝕の発症を予防する上からフッ素徐放性の高いグラスアイオノマー系の材料が薦められる。
また、欠損の位置で考えてみると、犬歯までの前歯では、より審美性の高いレジン修復が薦められ、小臼歯以後の臼歯部ではブラッシングのしにくさを考え、グラスアイオノマー系の材料が薦められる。しかしながら、後方大臼歯部では、充填操作が比較的困難であるため、より高い接着強さが得られるレジン修復が推薦されよう。
4)コストの違い
 いずれも金合金とアマルガムほどの差は認められないが、一番新しいコンポマー修復がもっともコストが高いといえよう。
追求4比べてみたら、どっちがどっち?
いずれの材料もある程度の臨床術式に対する習熟が必要であり、臨床で使い慣れることが要求される。その後に、症例に応じて材料やシステムを選択すればよいのであって、必ずこの材料を使わなければいけないという法則のようなものはない。しかし、接着性レジン修復がここまでくるのに約20年を費やしたことを考えると、光硬化型グラスアイオノマーセメントやコンポマーがより完璧な審美修復材科に近づくためにはさらに長い年月を必要とするであろうし、また実際の臨床でのコメントが材料の開発改良には必要不可欠となる。そのためには、多くの臨床家によって評価されねばならず、この意味では臨床家一人ひとりが、材料開発や改良に携わるという自覚が必要であろう。
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