弾性裏装材 | Fdr-PERI (DYNA BASE PERI) |
大阪府・開業 | 岡崎卓司 |
高齢化社会となり、義歯使用のお年寄りの数が多くなるとともに、総義歯に対する不満が急増していることは広く報道されており、また、苦情として取り上げられていることも現実である。そのおもな原因は床不適合であり、リベースやリライニングにより簡単に回復することができるが、かつては、材料的に苦労することが多く、強刺激、高硬化温度、強臭気の常温レジンを患者さんは耐えねばならなかったし、あるいは、技工室作業が必要であった。
このような不便を解消すべく、12〜13年前から光重合型の「エポレックス」や「トライアド」などのリライニング材が世に出て、チェアーサイドで簡単に処理できるようになり、重宝したものである。これを機にさらに9年前より低刺激、低硬化熱、低臭気の「トクソーリベース」が発売され、それを皮切りに、多くの硬質リベース材を各社が競争で発売して、総義歯患者に福音をもたらした。
しかし、これらのリライニング材(以下筆者はリベース、リライニングと類似法を統一してリライニングと記す)を使用しても、粘膜下組織が菲薄で、固い床材料との馴染みが悪い症例の場合には、弾性裏装材の出現が待たれていた。その願いをほぼ満足する理想的なシリコーン系の弾性裏装材が発売された(トクヤマ、ジーシーより)。また、粘膜に不調があったり、高齢者でチェアーサイドで正確な顎位がとれない症例、辺縁の延長を要するような場合に、動的機能印象法を流用するタイプのリライニング材の出現を期待していたが、最近その目的にほぼ到達したタイプの裏装材も開発された(製造は亀水化学工業で販売は亀水化学工業、ヨシダ)。
条件として、双方ともに技工室の世話にならない、歯科医師がチェアーサイドで十分処理できるものであることを前提にしておく。今回はこの二者を取り上げて、特徴や操作性、臨床における適応症など臨床使用感を検討したので報告する。
弾性裏装材とは、Resilient denture liner とかResi-lient lining material といい、軟質裏装材、軟性裏装材等と呼ばれている高分子材料である。従来より弾性の裏装材としては、シリコーンゴム系やポリフルオロエチレン系、その他2、3の素材のものがある。
高齢化社会となり、80〜90歳代の総義歯の患者が増加し、余生を食べる喜びに浸っている人びとは多いが、しばしば「噛めまへん」の苦情を耳にする。到底新調は無理であり、長年にわたり馴染んだ義歯床を補修することが老年医療の目玉であると思っている。しかし、顎堤は貧弱で、粘膜下組織も菲薄で固い床材料との馴染みが悪い場合には、相当以前から弾性材があればと思いながら取り組んできたが、幸いにも平成7年2月にトクヤマより「トクヤマソフトリライニング」と命名されたシリコーン系弾性裏装材が発売された(図1)。その後ジーシーからこれとまったく同形式の「デンチャーリライニング カートリッジタイプ」(図2)が発売された。
|
|
|
||||||
|
|
双方ともに、このような考え方で開発され、臨床上非常に重宝な存在であるので、次にその使用法を解説しながら追求してみたい。
実際に弾性裏装材を使用する場合は、極力間接法でリライニングをしたいものである。それは、弾性材の場合、その層の厚みの均一性が欲しいからである。直接法の場合、当たりを避けるために大きく削除すれば、それだけ肝心の咬合高径が低下する恐れがある。筆者は暫間的な場合のみ直接法で行うが、長期の使用に際しては常に間接法を採用している。では、どのようにして印象採得するか? 図に従って解説を行う(現在発売されている2社製品はまったく同一の操作法である)。
初めに現在使用中の義歯床にティッシュコンディショナーの役目と動的機能印象の役目を同時に果たす重宝な材料が出ているので、それを使う。「フィットソフター」(三金工業)を取扱説明書どおりに練和して、リライニングを行う床の粘膜面に盛りつけて口腔内に挿入し、数分間軽く咬合させたあと、余剰分を取り除き、形態を整えて、3〜6日間使用させたのち、来院してもらう。これで立派な機能印象がなされている。または、リライニングする床の粘膜面にシリコーン印象材を盛りつけ、咬合させて硬化を待つ(図4)。
このいずれかの方法で採得された印象は、さっそくデンチャージグ(試作)を用意して、この床の粘膜面(印象面)に石膏泥を盛りつけて、ジグに装着する(図5、6)。
|
|
|
||||||
図9 図910 トクヤマソフトリライニング用カートリッジにてソフトリライニングを盛りつける。石膏面と義歯床粘膜面との両方に盛りつける |
図11 ただちにジグを締めつけて硬化を待つ | |||||||
図12 図1213 10分程度放置後ジグより取り出して、余剰のリライニング材を切り取り、図に示す研磨器具にて辺縁部を整え、頬面のみ添付のソフトリライニングコートA.B.を塗布する |
図14 トクヤマソフトリライニングが歯槽堤部は2mm厚、口蓋部は約0.2〜0.4mm厚に貼られている |
なお、上顎の口蓋は2mmも切削できないので、0.2〜0.4mm程度切削する(図14)。 別の症例であるが、この間接法による1年経過後の診査では、何ら異常を認めず良い結果を示している(図15)。
|
|
|||||||
|
|
|
||||||
|
|
このリライニング材は1週間ほど弾性や可塑性の状態を保つので、この状態で数日間患者に使用させ、義歯床が安定した時点で光照射により強制的に重合させる(図22)。また、本材は体温により徐々に自然硬化する二重の重合機構を備えている。そして、義歯床と結合した普通の硬質リライニング材となる。この操作の手順を図に従って解説する。粘膜との馴染みを図り、5〜6日経過後光重合器にて重合を行い、リライニング処理が完了である。
|
|
有床義歯臨床においては技工士諸君のお世話にならざるを得ないが、そのアフターケアであるリライニング処置ではほとんどのテクニックがチェアーサイドで処理できるので、大いに効果があがる。その特徴を熟知し、適応症を誤らないことが大切である。
ところで、話は若干ずれるが、これからの歯科医院にはぜひ、ハロゲンランプあるいは蛍光灯使用の大型の光照射器を備える必要がある。値段はピンからキリまであるが、自作してもよい(図23)。値段が高いほど照射時間が短くてすむのは当然である。
さて、話を戻して、比べてみればどちらも素晴らしい製品で、われわれ臨床家と多くの義歯患者を助ける素敵な製品であると太鼓判を押させてもらうことにする。
日本人の義歯人口は増加の一途をたどりつつあるが、これに対応していくとき、有床義歯床に対する考え方の転換期がきたと思っている。適合性の低下した義歯床を長年使用している人びとは多く見受けられるが、これからは、常に顎堤に適合した義歯の使用が望ましいと世に訴える時代となろう。そして、常に患者さんに満足していただく義歯を作りたいものである。