2022年07月号 「左頬部の腫れ」
A | 4.増殖性筋炎 |
処置および経過:X+1日に生検を行ったところ、病理医より横紋筋肉腫の可能性が高いとの一次報告を受けた。そこで、PET-CT検査をX+9日に行ったところ、SUV値は3.9と横紋筋肉腫としては低く炎症性変化を示唆するものであった(図4)。X+10日に病理医から増殖性筋炎との最終報告を受けた。その後の当科再来時には左側頬部腫瘤はやや縮小していたため、とくに治療はせずに経過観察とした。1ヵ月後には30mm程度、4ヵ月後には20mm程度までさらに縮小し、1年1ヵ月後に腫瘤は完全に消失した(図5)。
増殖性筋炎は横紋筋組織内に発生する良性の線維性増殖性疾患であり、好発部位は大腿部、上腕、肩甲部とされ頭頸部領域では稀である。本症例は開口障害がなく、腫瘤が咬筋前縁部より前方に位置していたことより、頬筋に発症した可能性が高いと考えられた。増殖性筋炎の鑑別診断としては、臨床的にも組織学的にも横紋筋肉腫、悪性線維性組織球腫などが挙げられる。本症例は急激に腫瘤が増大したため、まず悪性リンパ腫や肉腫性病変の急性増悪を疑った。また、増殖性筋炎の診断経験のある病理医も少ないとの報告もあり、確実な組織学的鑑別には時間を要する。
治療は保存的療法や経過観察が可能とされるが、臨床的には悪性疾患を疑い生検を兼ねて手術療法を選択する場合も多く、過去の報告では手術を選択している症例が多かった。本症例は、経過観察のみで1年1ヵ月後に治癒した。このことから、悪性腫瘍を疑うような症例でも、本疾患のような良性疾患も念頭に置いたうえで、鑑別診断を行わなければならないと考えさせられた症例である。
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