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2022年05月号 「難治性の口内炎」
4.HIV感染症

処置および経過:免疫グロブリンの高値を認めたため精査を勧めたが、30年前に罹患した梅毒によるものであると申告(初診時の医療面接時には非申告)し、拒否された。細菌検査でCandida albicansを認めたため抗真菌薬を投与し、亜鉛低下に対し亜鉛補充療法を行い白苔と疼痛はやや軽減したが、軟口蓋の潰瘍に増大傾向を認めたため、了承を得て血液検査を追加した。その結果HIV抗体陽性が判明し、血液腫瘍内科のある治療拠点病院へ転院となった。
◎HIV感染症
 HIV(Human Immuno-deficiency Virus)はRNAウイルスに属するレトロウイルスで、CD4陽性Tリンパ球やマクロファージに感染し免疫を低下させる。HIV感染症が進行し著しく免疫能が低下した状態を、AIDS(後天性免疫不全症候群:Acquired Immunodeficiency Syndrome)という。
 1981年にアメリカで初めての患者が発見された当初は特効薬がなく、感染すると予後は極めて不良であったため「死の病」と恐れられていた。現在ではHIVに感染しても早期治療(HAART:highly active anti-retroviral therapy、現在は単にART)によりAIDSの発症を防げれば、感染していない人と同程度に長く健康的に生活できるようになった。
◎歯科治療における感染対策
  診療の現場では、HIVに限らず未知のウイルスなどに感染した患者が受診している可能性があるため、標準予防策は必須である。また、HIVはB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルス(HCV)と同様に血液や体液を媒介として感染するが、感染力には大きな差があり、経皮的曝露時の疫学的研究によると感染力は「HBV:HCV:HIV=100:10:1」となっている。したがって、HIV感染症患者の歯科治療は標準予防策で十分対応可能である。
◎HIV感染症と歯科医療
  HIV感染症の治療では早期発見が重要であるが、口腔内症状が他症状に先行することがあるため、歯科が発見し、感染拡大を予防できる可能性がある。性感染症などは医療面接で聴取することが困難な場合も多いが、免疫不全によりさまざまな口腔症状が出現してくるため、日常臨床ではあまりみかけないような口腔病変に遭遇した場合はHIV感染症を疑うべきである。
 また、HIV感染者が受診した際には偏見なく適切に対応することが必要で、疑問や不安がある場合は各地域のエイズ治療ブロック拠点病院の歯科部門に相談するとよい。


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