A | 3.MTX関連リンパ増殖性疾患 |
MTXの成分であるメトトレキサートは、もともと抗がん薬として認可された薬剤であるが、わが国では1999年に関節リウマチ(RA)の治療薬として承認され、その有効性の高さからアンカードラッグとして第一選択されるようになった。副作用として、倦怠感や嘔気の他、骨髄抑制に起因した汎血球減少による皮下出血や鼻出血・歯肉出血などの出血傾向が問題となっている。近年では、MTXを投与された患者に、リンパ腫を含めたリンパ増殖性疾患が合併する、MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX- LPD)が報告されている。
WHO分類では、その他の医原性免疫不全に関連したリンパ増殖性疾患として分類され、発症機序は不明であるが、RAにおける免疫異常とMTXによる免疫抑制効果が関与していると考えられている。MTX投与例に発熱やリンパ節腫脹などの臨床所見を認めた場合は、本症を疑う。治療としてはMTXの中止のみで、通常、中止後1ヵ月以内にほぼ30%は消退するとされる。
処置および経過:初診時の細胞診では炎症性細胞浸潤のみであったことより、軟膏と含嗽で経過観察を行ったが、翌週には下顎小臼歯部潰瘍の範囲は拡大し、上顎左側口蓋粘膜においては壊死組織を伴った潰瘍形成を認めた。そのため、上下顎ともに生検を実施し、以下のような結果を得た。
HE染色では核小体の目立つ大型の異型細胞を認め、免疫染色では、腫瘍性T細胞のマーカーであるCD3やB細胞性マーカーのCD20およびCD79aが陽性を示した他、EBウイルスも検出された。
以上より、上顎・下顎ともにEBV陽性のB細胞リンパ腫との診断を得た。
上記結果を踏まえ、当院血液内科で対診を行うと同時に、かかりつけ医へMTXの投与中止を依頼した。投与中止後、約1週間で下顎左側臼歯部潰瘍(図3)は縮小し、約1ヵ月で治癒、口蓋側の潰瘍(図4)も約3ヵ月で治癒に至った。
なお、本症例はMTXの休薬を行うことで治癒に至ったが、RA自体の重症度やコントロール状況によって、安易な休薬は患者のQOLを低下させる可能性があることから、血液内科および処方医との緊密な連携と情報共有が必要と考える。
図3 MTXの投与中止約1週間後
図4 MTXの投与中止約3ヵ月後
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