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2022年03月号 「抜歯後治癒不全」
3.急性骨髄性白血病髄外再発

 造血幹細胞移植技術や多剤併用療法の進歩により、白血病の治療成績は向上したが、25〜30%の症例では再発を生じるといわれている。そして、そのうち5%程度は、白血病細胞が髄外臓器へ浸潤する髄外再発を起こすといわれている。髄外再発を生じる部位としては乳房や消化管などに多いとされ、ごく稀に口腔内にも生じる。決して頻度は高くないが、周術期等口腔機能管理が積極的に推進されているなかで、がん治療の既往をもつ患者の口腔内を診察する機会が増加していることから、こういった希少な症例を知識として有することは無駄にはならないと考える。
 本症例では、問診が一つの重要なポイントである。白血病の既往があり、また、口腔衛生状態が良好な25歳の女性にもかかわらず、ld8のみの動揺を自覚したという現病歴は、通常の智歯関連症状とは異なることを予感させる。造血幹細胞移植後の二次固形がんが、口腔に多く発症することはよく知られている。本症例は二次固形がんではないが、造血幹細胞移植後に、口腔に何らかの悪性腫瘍が生じる可能性が一般の集団よりも高いことを、かかりつけ歯科医は認識する必要がある。
 本症例においては、感染所見に乏しいことから、歯性感染症(抜歯後感染、下顎骨骨髄炎)は否定的である。また、エプーリスでよくみられる弾性軟の腫瘤ではなく、押して潰れるような「ぷよぷよした」病変であった。口腔内の髄外再発病変は、弾性硬や弾性軟であったという報告が多い反面、報告数自体が少ないことから所見の画一化は困難だが、少なくとも本症例は典型的なエプーリスとは異なる。
 かかりつけ歯科医のマネジメントという観点から究極的なことをいうと、本症例において重要なのは、「この症例は髄外再発である」と診断できることではない。ある程度の口腔外科研修の経験がなければ、初見で髄外再発を疑うのは極めて困難であろう。
 しかしながら、こうした症例の経過や視診・触診により、「何かおかしい」と感じてほしいのである。そして、たとえば抜歯後感染という「誤診」のもと、抜歯窩の搔爬などの「誤治療」を行ってしまったとしても、その後の治癒評価で早々に「何らかの腫瘍」を疑ってほしい。搔爬の際に病理検査に出していたら、それは “ファインプレー” ともいえよう。
 本症例を見たときに、何も手をつけずに早々に高次医療機関に紹介することが最善の方法ではあるが、極めて稀な症例であることを鑑みれば、「誤診」「誤加療」後の評価で何らかの腫瘍を疑い、すみやかに高次医療機関へ紹介することは、現実的な方法として全否定されるものではないと、個人的には考えている(決して「誤診」「誤治療」を容認しているわけではないことをご理解いただきたい)。
 髄外再発が口腔内に見られた症例の予後は極めて悪いため、血液内科医による早期の全身治療開始が望まれる。治療の遅延を防ぐために、本症例を記憶に留めてほしい。

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