2022年01月号 「歯肉頬移行部の腫瘤」
A | 1.脂肪腫 |
本症例は、病理組織検査結果からの歯内歯周病変部位に脂肪腫が合併して生じたものと診断した。
脂肪腫は、分化した脂肪組織からなる非上皮性の良性腫瘍であり、口腔・顎顔面領域での発生頻度は比較的稀(全脂肪腫の0.2〜2.2%)とされてきたが、近年、長期間の集計例による臨床的・病理学的報告も増加しており、口腔内脂肪腫がもはや稀ではないという報告も見られる。わが国では中高年層に好発したとする報告が多い。口腔領域では、頬粘膜や舌に好発するが、歯肉組織には元来、脂肪組織が認められないため、歯肉や歯肉頬移行部に発生することは少なく、異所的な脂肪細胞が存在したことが原因と考えられる。
一般に無痛性の腫瘤または腫脹で増殖が緩慢であるため自覚に乏しく、来院までの病悩期間は比較的長い(10〜40年)。治療は腫瘍摘出術が行われ、通常は線維性被膜によって被覆されているため、切除すれば再発することはないが、腫瘍が残存した場合には再発が見られることもある。
本症例においては、根管治療での腫瘤に対する反応性は乏しく、途中で可動性を触れるようになったため、CBCT撮影の結果、透過像部と歯肉腫瘤部に連続性は認められなかった。さらに、腫瘤上を穿刺するも内容液を吸引できなかったため、切開を加え、粘膜を剥離すると、歯肉頬移行部に10mm大の黄色の境界明瞭な腫瘤を認めたため、摘出術を行った。腫瘤は骨膜の上に存在し、骨との連続性は認めなかった。摘出組織を病理組織検査へ提出した結果、脂肪腫と確定診断された(図4)。また、並行して根管治療および歯周治療を行い、根分岐部から根尖部にかけての広範囲なX線透過像はほぼ消失し、現在まで良好に経過している(図5)。
- 1)白砂兼光,古郷幹彦(編):口腔外科学 第4版.医歯薬出版,東京,2020:285-286.
- 2)星野照秀,大野啓介,高野正行,片倉 朗:下顎歯肉から歯肉頬移行部に発生した線維性脂肪腫の1例.日本口腔診断学会雑誌,31(3):221-224,2018.
- 3)野池淳一,清水 武,五島秀樹,川原理恵,植松美由紀,細尾麻衣,横林敏夫:口腔顎顔面領域に発生した脂肪腫の臨床的検討.新潟歯学会誌,41(2):91-97,2011..
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