A | 1.慢性顎骨骨髄炎 |
歯の欠損部(顎堤部)の疼痛や開口障害などの症状がある場合は、臨床所見で炎症所見を認めなくとも、骨髄炎の精査が必要である。
慢性顎骨骨髄炎は、急性骨髄炎の経過で慢性骨髄炎に移行するものが多く、その臨床像は瘻孔形成や持続的排膿などである。それに対して、本症例のように、急性症状を伴わずに発症する慢性顎骨骨髄炎も存在する。これは、起炎菌が弱毒菌であるか、宿主の抵抗力が強いことが発症要因と考えられている。
顎骨骨髄炎の診断には、臨床検査およびパノラマX線、CT、MRI、骨シンチグラフィー(99mTc- MDP/HMDP)などの画像検査を行う。とくに、骨髄炎の範囲を診断するにはMRIまたは骨シンチグラフィー検査を用いるのが有用とされる。PET検査も有効とされるが保険適応外である。MRI画像所見は、急性顎骨骨髄炎では、浮腫や充血などを反映して、T1強調像で低信号、T2強調像・STIR像で高信号を示し、慢性顎骨骨髄炎では、T1強調像・T2強調像ともに不整な低信号を示す骨硬化性変化がみられるようになる。ただし、慢性骨髄炎の中に活動性の病巣があれば、そこは急性期と同じ信号パターンを示す。
本症例では、血液検査で炎症を示す所見はなく、パノラマX線およびCT画像においても顎骨の変化は示されなかった。しかし、MRI画像ではT2強調像・STIR像にて高信号が認められた(図3)。これらの所見から、活動性病巣が混在する慢性顎骨骨髄炎と診断した。
治療法は、薬物療法、外科療法(骨穿孔法、皮質骨除去、顎骨離断など)、還流療法、高圧酸素療法などである。なかでも、抗菌薬投与による薬物療法を第一選択とする施設が多いと推測される。抗菌薬の選択は種々あるが、14員環系マクロライド系抗菌薬の長期投与が有効な治療法の一つとされる。14員環系マクロライド系抗菌薬の作用機序については不明な点も多いが、抗菌作用以外に、細菌に対するエラスターゼ産生抑制やバイオフィルムの破壊、形成抑制効果、マクロファージの分化促進作用やサイトカイン産生抑制などによる抗炎症作用、気道分泌抑制効果などが挙げられている。
本症例ではClarithromycin(CAM)の少量(200mg/day)投与を約3ヵ月間継続し、症状の改善が得られた。また、Clarithromycin(CAM)で効果が得られなくとも、Roxithromycin(RXM)の長期投与で改善される症例も散見されるため参考にされたい。
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