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2021年9月号 「白色海綿状母斑」
3.白色海綿状母斑

診断と経過:口腔内細菌検査の結果、口腔内常在菌の増加を認めたが、カンジダなどの真菌は検出されなかった。
 白板症などの粘膜疾患を疑い、生検術を施行し、白色海綿状母斑の病理組織学的診断を得た。以降、定期的な経過観察を継続しているが、現時点では母斑の拡大や自覚症状の出現は認めていない。
症例のポイント:白色海綿状母斑(White Sponge Nevus:WSN)は、おもに口腔、鼻腔、膣などの粘膜に生じる白色病変であり、粘膜が浮腫状、スポンジ状を呈する疾患である。
 病理組織学的所見としては、粘膜上皮の過形成による肥厚や錯角化、有棘細胞層の膨化、空胞化による網目状構造を認めるが、一方で基底細胞層には変化を認めないことが特徴である(図3)。
 WSN発症の原因は、咬癖や喫煙、ヘルペスウイルスやHPV、細菌感染によるものが代表的とされてきたが、近年はサイトケラチン遺伝子の変異による角化異常も原因であると考えられている。家族性に発症する常染色体優性遺伝の性質も以前から報告されており、家族に同様の所見が認められるか聴取することで確認できるが、本症例のように、孤発性に発症する場合もある。家族性あるいは非家族性WSNに関して比較を行った報告において、免疫組織学的に両者におけるケラチン各種の染色性に違いを認めたことから、遺伝性の有無で、WSN発症の原因が異なる可能性も示唆されている。本症例では、頬粘膜に歯圧痕を認めたため、舌に対する歯による機械的刺激がおもな原因ではないかと考えられた。
 WSNの治療法は、角化亢進抑制の効果をもつエチレナートの使用や、マクロライドやペニシリンなどの抗菌薬内服、テトラサイクリンなどによる含嗽といった薬物療法の報告が、国内外で多くなされている。しかし、海外では1歳半児といった乳児でのWSN報告例も存在し、わが国でも乳幼児や若年層の報告例も多いため、催奇形性があるエチレナートの投与や、抗菌薬の長期あるいは頻回の処方は、耐性菌出現の観点から避けることが望ましいと考えられる。
 WSNは無症状で経過することが多いが、消失する場合、軽快・再燃を繰り返す場合などさまざまである。そのため、定期的に経過観察を行いながら、症状発現時に対症療法を行っていくこととなる。しかしながら、ごく稀に悪性に転じた症例の報告も存在することから、白板症や口腔扁平苔癬などの口腔粘膜疾患と同様に注意を要する疾患である。


図3 病理組織学的所見
a:弱拡大。粘膜上皮の過形成が認められる
b:強拡大。中央から右方にかけて有棘細胞層の膨化、空胞化による網目状構造を認める


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