2021年09月号 「硬口蓋に発生した腫瘤性病変」
A | 1.多形腺腫 |
処置および経過:CTの読影結果は多形腺腫であった。これより、腫瘍性病変が考えられたため穿刺吸引細胞診を行ったところ、核肥大した上皮様細胞集塊と間質由来と考えられる紡錘形の細胞が認められ、ClassII多形腺腫の推定診断が得られた。本人や家族に当疾患について詳細に説明したが、侵襲的な検査や手術加療を希望されなかったため、3ヵ月ごとの経過観察を行っている。
多形腺腫は、唾液腺腫瘍のなかで最も発生頻度が高く(約70%)、耳下腺、顎下腺、そして口蓋腺が好発部位である1)。性別では女性に多く(60〜70%)、無痛性で緩慢な増殖を示し、腫瘤を形成する。治療法は、原則的に外科的切除を行う。本腫瘍は通常、膨張性に増殖する良性腫瘍であるが、ときに悪性化することがあり、多形腺腫内がんと呼ばれる。これは全唾液腺悪性腫瘍の12%2)、また全多形腺腫の3〜4%で生じるとされ、診断から15年を超えると悪性化の頻度は約10%となる3)。他の報告では、多形腺腫を放置すると25%が悪性化すると推定している4)。予後は不良であり、5年、10年、15年生存率は、それぞれ40%、24%、19%とされる5)。
穿刺細胞吸引診は、腫瘤実質に23G針を刺入し、吸引することで検体を採取する方法である。同検査法では組織型まで確定することは困難であるが、良悪診断における正診率は95%とされ、十分有用と思われる6)。本症例のように腫瘍性疾患が疑われた場合は、播種の可能性が低い同検査法を積極的に採り入れるべきであると考える。その一方で、細胞診は少数の細胞を検鏡して診断を得るため、病理診断と比較すると診断の精度は低い7)とされ、確定診断には病理組織検査が必要である。結果は、表1のようにClassTからXに分類している。
表(1) パパニコロウ分類の判定基準
Class I | 正常細胞(異常なし) |
---|---|
Class II | 異型細胞は存在するが、悪性ではない |
Class III | 良・悪性のいずれとも判定できない |
Class IV | 悪性細胞の可能性が高い |
Class V | 悪性と断定できる異型細胞がある |
- 1)Olsen KD, Lewis JE: Carcinoma ex pleomorphic adenoma: a clinicopathologic review. Head Neck, 23: 705-712, 2001.
- 2)Gnepp DR, Wenig BM: Malignant mixed tumors.Surgical pathology of the salivary glands. Elllis G, Anclair P, Gnepp D(eds): WB Saunaders, Philadelphia, 1991: 350-368.
- 3)Seifert G: Histopathology of malignant salivary gland tumors. Eur J Cancer B Oral Oncol, 28: 49-56, 1992.
- 4)Thackray AC, Lucas RB: Tumors of the major salivary glands. In:Atlas of tumor pathology, 2nd series, Fascicle 10. Armed forces institute of pathology, Washington DC, 1983: 107-117.
- 5)Spiro RH: Salivary neoplasms: an overview of a 35 year experience with 2807 patients. Head Neck, 8: 177-184, 1986.
- 6)山田光一郎,佐藤進一,土師知行:唾液腺腫瘍における穿刺吸引細胞診の有用性.頭頸部外科,24(3):341-345,2014.
- 7)久米健一,宮脇昭彦,比地岡浩志,石田喬之,仙波伊知郎,中村典史:上唇粘膜部に発生した腺房細胞がんの2例.日口外誌,58(9):26-30,2012.
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